都橋探偵事情『舎利』

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「そうだ忘れていました。ベトナムからの帰還兵が小型の火器をブローカーと闇取引する確実な話を聞き込みました。ブローカーの氏名も押さえました。『クワトウ』と言う男が基地に出入りしていました」 「メモすっからちょっとまってね。『コウトウ』?」 「違う、『コウトウ』じゃなくて『クワトウ』 「ク、ワ、ト、ウ。『コウトウ』」 「まあそんな感じです」  中西は面倒臭くなり諦めた。 「他に新情報はありませんか?横浜で協力出来ることがあればなんでも言ってください」  ここまで関係したら米沢も横浜もない。協力して悪党を退治することが使命であると正義の味方の血が騒ぐ。 「昨日不審人物現場辺りうろづいでいますた。恰も被害者の友達さ成り済ます、被害者の妹ども巧妙さ接触す勤め先のママさんから被害者の履歴書見しぇでもらった。妹はその男の口車さ乗しぇられですっかり信ずでいますた。おら共は危険ど感ず妹待ぢ合わしぇすてだホテルさ同行すたが、我等の姿物陰で確認す逃亡すた。それでやっと妹も気付いだ次第だ」 「関係者だと?」 「間違いね。東京さ帰っこんだら米沢駅さ向がうどごろ下りの南米沢駅でタクスー下車すてる。そすて運転手欺ぐだめにホテルの前で停車さしぇで宿泊客装って逃亡時間稼いでる。おらだの隙まんまど突いでる。男は米沢線乗り継いでそれ切り足取りが掴めでいましぇん」 「どんな男ですか、人相書きは?」 「男は現場近ぐの煙草屋や焼ぎ鳥屋郷土史研究家だど騙すて現場のごど探っていますた。妹や接触すた人等の印象参考さ似顔絵にすて送んべ」  郷土史研究家は徳田が探りに使う職業である。まさか徳田が絡んでいるわけがないと払拭した。  
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