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安ホテルのフロントは係が常駐しているわけではない。客の呼び出しや点検なども兼ねている。米沢を出て新潟で一泊した。昭和50年現在上越新幹線は整備されていない。新潟始発で横浜に到着したのは17:00.を回っていた。
「いらっしゃいませ」
フロント係が戻って来た。
「302の黒木さんを呼んで欲しい」
「かしこまりした。失礼ですがご指名を」
「徳田と申します」
「徳田何様でしょうか?」
「英二、徳田英二」
しっかりしているフロントである。安ホテルだからと見くびってはいけないと反省した。
「ただいまロビーにお越しいただくそうです」
「ありがとう」
黒木が杖を突いてロビーに降りて来た。
「冷えると痛みまして」
義足の突合せ部が痛むらしい。徳田は外に連れ出そうと思ったが黒木の足の具合を考えてロビーで話すことにした。
「黒木さん、危うく警察に拘束されるところでした」
理由を話さず結果をぶつけた。黒木の反応を見たかった。
「それは失礼いたしました」
謝罪は予想をしていたと言う証拠である。
「黒木さん、金をせびるつもりはない。しっかりと受けた依頼も熟します。しかし小川誠二と言う男と手榴弾の関係ぐらいは聞いておかないと動きようがない。危ない男ならそれなりに用心します。これでもかなりの修羅は潜って来ました。本来なら警察に届けなければならない案件を私共に頼った。それにはそれなりの理由があるでしょう。依頼人の秘密を守るのがモットーです。話してくれませんか?」
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