66人が本棚に入れています
本棚に追加
黒木は目を瞑り考えている。たった一度切の依頼者と探偵の関係でそこまで明かしていいものか。出来れば何も明かさず小川の所在を突き止めてくれれば自分で説得するつもりでいた。しかし探偵は警察に追われる羽目になった。
「小川の所在だけを突き止めていただけないでしょうか?」
黒木はあくまでも人捜しにこだわった。
「私が信用出来ないことはよくわかります。あなたは事務所に来られた日に『早くしないとまた過ちを起こす』そう言いました。もしかして手榴弾殺人事件の犯人は小川なんですか?」
徳田は乱暴だかストレートにぶつけてみた。これで理由を話さないわけにはいかないだろう。
「そう思います」
黒木が認めた。
「警察は血眼になって小川を捜しています。私を疑うぐらいですからまだ何も掴んじゃいません。分かりました。所在だけをあなたにお伝えいたします。警察が早ければそれはご容赦願いたい」
「お願いします」
黒木は立ち上がり部屋に戻って行った。依頼の該者は殺人犯である。徳田は依頼金は見合わないが黒木の懐具合も察した。徳田は斎藤嗣治の保証人だった佐々木宅を訪ねることにした。山手の高級マンションである。403号を押した。
「はい、佐々木です」
若い女である。妻ではないだろう。
「私は幹夫さんとお付き合いしている者ですが、在宅でしょうか?」
「父とですか?どうぞお入りください」
恵美子は父親の情報が訊けると思った。徳田は佐々木がいたらありのままを聞き出すつもりである。殺された斎藤との繋がりやこれまでの関係も。ドアに佐々木幹夫・恵美子、その横に佐々木貿易と書いてある。株式も有限も付いていない。個人の貿易商だろうか。ベルを鳴らすとすぐにドアが開いた。訪問も待ち構えていたようである。
最初のコメントを投稿しよう!