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「どうぞ」
スリッパが用意されている。徳田は一礼して上がり込んだ。
「お父さんはお留守ですか?」
「はい、今朝早く出て行きました。父と連絡が付かなくてお出でになられたんでしょ」
妙なことを言う。娘も父親の所在を知らない様子。
「ええ、約束をしていたのですがお出でにならなかったので心配致しました。するとお嬢様も分からない?」
恵美子は頷いた。
「会社にも戻っていませんでした。先ほどまで警察の方が父に用があると言いずっと会社におりました。警察の方が言うには米沢で殺された方の保証人になっていたとかで、手掛かりを探しているようでした」
警察は既に佐々木を捜している。恐らく斎藤の妹の証言を元に動き出したのだろう。
「お父さんは心の広い方で困っている方がいれば黙って見過ごせない人ですからね、かなりの方が保証人になっていただき助かったことでしょう」
目を瞑り小刻みに頷いた。徳田は娘の心情に潜り込む。恵美子は徳田の猿芝居に騙される。
「父とはどういう関係でしょうか、お仕事?」
「貿易のイロハを教えていただきました」
「それじゃ貿易関係のお仕事を?」
「5年程前に素質を見抜いて廃業しました。今はこんなことをしております」
徳田は名刺を差し出した。
「都橋興信所?」
「ええプロの人捜しです。父上を捜しましょう。若い頃世話になったことを想いだすと居ても立ってもいられない。お嬢さんがNoと言われても私は勝手に動きます」
佐々木は米沢の事件で出ていったならば小川との接点もあるかもしれない。一人も二人も同じ経路で捜すことが出来る。
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