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「先じ、ばあさぬんかいてぃー合ーしぇー」
小さな仏壇の伯母に手を合わせた。豚の耳をつまみに泡盛をストレートで飲み始めた。氷が欲しいが伯父に悪い。
「伯父さんテレビは?」
「基地ぬ騒音っしふとぅんどぅちかりらん」
首を振った。軍用機の離発着で音が聞こえないらいい。差し込みが抜けている。見ていないようである。周囲に新聞もない、取っていないようである。
「伯父さん、お願いがあるんだ。手榴弾ありませんか?前に貰ったのはなくしてしまった」
伯父は立ち上がり箪笥の中をガサゴソやって拳銃を持って来た。
「手榴弾ー本土ぬふりむんえーてぃんかいちかてぃねーん。くりやれーすん。わしんかえーなーいりゆーねーなたん」
手榴弾は本土のやくざ相手に使用してもう手元にない。この拳銃なら持って行けと差し出した。伯父は喜寿を越している。もう本土やくざ相手に戦う気力も体力も失せてしまった。名城は手に取った。アメリカ製の銃で弾は五発入っている。
「手榴弾は手に入らない?」
「いくさやてぃん始みーるちむりが?」
伯父は笑った。
「両親の仇を取りたい。テニアンの洞穴の中で母親に手榴弾を渡した男を見つけ出したんだ。同じやり方で殺したい」
名城は正直に打ち明けた。伯父は嘘吐きを相手にしない。名城もそう育てられた。
「桜坂ぬバーっしチャーミーってぃまちやぬあん。うまんかい山城とぅ言いんかちてぃぬわしぬ若い衆ぬうぅん。すいちうっちゃかれー」
那覇歓楽街桜坂のバー『チャーミー』に伯父の元若い衆で山城と言う男を頼るようアドバイスされた。桜坂は昔ほど賑やかではない。沖縄返還後に衰退していた。
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