都橋探偵事情『舎利』

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 徳田は西幸町でタクシーを拾った。昔は市電が網羅していた、今は全てバスになった。最後まで走っていた市電五系統間門・洪福寺間も昭和43年に廃線となった。徳田はバスがあまり好きじゃない。最近はタクシー代が嵩むようになった。 「遅かったな」  約束の時間を30分遅れの中西に布川刑事が言った。 「すいません。ザキで捕物に参加してました。日劇の前から福富町西公園まで逃げやがって。汗かいてシャツ濡れちゃった」  中西が武者震いした。 「風邪ひくなよ。ひかねえかお前さんは?」  布川は笑った。 「今晩熱いの奢ってくれれば治りますよ」  布川に催促した。 「それより出てきましたか」  布川は富士見中学校の裏で張り込みをしていた。 「まだ出てこない。今日はスカかもしれないな」  張り込んでいるのはやくざの女である。男はパチンコ屋で暴れて店員に怪我を負わせた須加誠32歳、そのまま逃走し行方が分からない。幸い店員の怪我は頭を十針縫う軽症だった。しかし逃げる時にシャブのパケを落としている。小銭入れにグラムのパケが五つ入っていた。その数からして売人の線が濃いと睨んだ。 「布川さん、女が出かけます」  須賀がパチンコ屋から逃走したのはジャージ姿であったことからして金品を持ち歩いていないと読んだ。金と着替えの要求を必ず女に連絡すると布川の作戦である。 「よし、行くか」  中西が先頭で歩き出した。女が務める店は野毛のバーである。まだ店の時間には早い。買い物籠を提げていることから買い出しである可能性が高い。
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