都橋探偵事情『舎利』

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「ああ、美味えもん食わしぇでける。中華街なんて行ったごどねべー。案内すてけっからな。チャーハンどがタンメンどが頼むんでねぞ、カッコ悪いがら」 「おめこそ横浜なんて行ったごどねぐしぇに偉そうに言うな」 「何おっしゃるっすか、横浜はおらの第二の故郷だ。従妹戸塚で店出すたごどがある。そん時さ二日間泊った」 「そりゃ何年前の話だ。おめから洋菓子もらったの覚えでる。ジャイアンツの王さんがコマーシャルすてだ菓子だ。あれならもう10年になるぞ。課長、戸塚って横浜だが?課長は東京の人だがら少すは分がんべ」  二人の言い合いは収まらない。 「戸塚はね横浜市」  課長が言った。 「ほれみろ、んだがら言ったでねが」 「だけど雰囲気は米沢に近い。山に囲まれた町でこれから開発されるだろうけどあなた方が想像する横浜とはかなり違う」  課長がまとめた。高橋は黒のレインコートを羽織り黒のコールテン生地のハンチングを被った。。鈴木はタートルネックに織縞模様の綿入れ半纏姿である。鳥打帽を被り長靴を履いている。 「それで行ぐのが?」  高橋も身なりにうるさい方じゃないが横浜に綿入れ半纏ではどうかと思った。 「恥ずがすいのが、おらの恰好?」 「別にそう言うわげんねげど」 「米沢駅まで送ります」  長くなりそうな二人に佐藤が割って入った。  横田が米軍根岸住宅で担当将校から聞いた話を黒板に書いて説明を始めた。 「武器売買の現場で実際に取引を止めた男を紹介していただきました。トーマス・ジェンキンズ中尉です」 「そのトーマスに訊けば武器売買の実行犯、又は未遂者を紹介してくれるわけだな」  布川が確認した。
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