都橋探偵事情『舎利』

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「まだ陽があるうちから待ち合わせをしますかね?」  中西が空を見上げて言った。 「分からん、だが金が渡ったら最後奴を上げることは出来ない」   布川が答えた。確かにそうだ、暫く身を隠すだろう。尿には最低三日、髪の毛には三カ月間残存するが確実ではない。本人はシャブを抜いてきれいな身体で戻って来る。そうすれば落としたことをとぼければ立件が難しくなる。既に三日が過ぎている。尿検査が有効な期日中に須賀を挙げたい。傷害とシャブの二本立てで挙げれば仮に譲渡目的が立件できなくても刑務所にしばらくぶち込める。女は野毛のスーパーに入った。 「布川さんはここで待っていてください。怖い顔して、どう見ても刑事にしか見えない」  それはお前だと口まで出たが任せることにした。女は生鮮コーナーをぶらついている。このスーパーには裏口がある。動物園通りからも入店出来る。林檎を手に取り見ている。女の横に男が現れた。須賀じゃない。ハンチングを深く被りスポーツ新聞を折り畳んで持っている。女が新聞の先に何かを挿し込んだ。女は林檎を買ってレジに向かう。中西は男を追う。動物園通りに出た。男は場外馬券場に向かう。今日は土曜日、場外は人で溢れている。  女が出て来た。中西の姿はない。はては誰かと接触したか、やみくもに中西を探しても擦れ違いになる。布川は女を追うことにした。  混雑する場外で中西は男を見失わないようにピタとくっ付いた。混雑が尾行を助けてくれる。ハンチングの色は黄色に近いベージュ、混雑時には恰好の目印である。これは須賀から見ても同様である。須賀がパチンコ店から逃げた時は青のジャージだったが着替えているに違いない。男は投票窓口に並ぶ。中西は隣の窓口に並んだ。背広姿の男がハンチングにぶつかった。 「痛えな」  ハンチングが言った。新聞がない。中西は背広を追い掛ける。追い越して正面に立った。
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