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「ゼロです、むしろ被害者になりかねない」
中西が断言した。課長と布川が頷いている。
「佐々木はどこに行った?」
「米沢でしょう、被害者の追悼じゃないでしょうか」
「それだけ深い関係なのか?」
「そう思います。普通殺しに手榴弾は使いません。どうして手榴弾なのか、手榴弾でなければいけなかったのかその動機を掴みたい」
中西はこの事件に奥の深さを感じていた。
「サイパンやテニアンだけじゃない。沖縄もそうだったが、軍が民間人に捕虜になるなら自害を勧めたのは公然の事実だ。民間人に捕虜になれば残虐な仕打ちを受けると脅していた。いや軍人の多くがそう思い込んでいた。それが今回の事件に関連するかどうかは分からない。もしそうであるならば、ホシは犯罪を犯してるとは考えていないだろう。例えが正しいかどうか、日本人が好む仇討だろう」
満州からの帰還者である課長が重い言葉を使った。
「それじゃ軍人に死を迫られて実行した家族の敵討ちですか?」
横田が信じられないと言う表情をした。
「実は俺もそう思って米沢の高橋さんに伝えた。そしたら勇み足は後戻り出来ないと諭されました」
中西は高橋の言葉で思い直したのである。そんな時に米沢から事件の進捗を記したファックスが届いた。
「真っ黒で読めねえな。おい横田、お前目がいいから読めんだろ」
課長に届いたファックスを横田に回した。読める読めないと言うより見える見えないが正しい。それでも横田は必死になって書き写している。
「見えるとこだけ拾いました」
「さすが大卒、やるときゃやるな」
中西が肩を叩いた。
「はい」
返事をする以外にない。
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