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「許さない」の連鎖
カラカラ。事務所の椅子を回す。その時依頼人が入ってきた。
「いらっしゃいませ。誰を殺してほしいのでしょうか?」
「こいつを…殺してほしいんです…。」
私の前に差し出されたのは1枚の写真だ。出っ歯で無表情。ピースをしている。隣りにいる女性は…依頼主か。
「と、いうと?」
私は、目の前の依頼主と目を合わせる。依頼主は今にも泣きそうだ。
「こいつは…私を裏切ったんです。好きって言ってくれたのに最終的には、お金を奪って逃げたんです。」
「つまり、結婚詐欺ということですね?」
私は、よくある依頼の内容と重ねて聞く。
「…違います。あいつは私を、愛してるのに逃げたんです。きっとなにか事情があったんです。でも、もう我慢できない。ゆるせない。逃げたこと後悔させてやる。だから、殺す前に聞いてほしいんです。「井上咲楽」の元に戻る気はあるかって。あるといったら殺すのをやめてください。でも…ないと言ったら…そのときは…。」
このパターンもよくある。自分捨てられてないと、自分に言い聞かせているのだ。きっとこの男が死んだ場合、この依頼主も一緒に死ぬ気だろう。だがそれは関係ない。
「わかりました。お金はかなり多額請求するつもりですがよろしいでしょうか。」
依頼主は、少し迷った素振りを見せたが、小さくうなずいた。
「それでは、行ってきます。」
「え?もう行くんですか?」
依頼主は、涙目で聞いてくる。声も少しかすれているようだ。
「だめですか。」
「心の準備というものが…。」
依頼主も死ぬ気だからだろう。だが、時間制限にはオプションが付く。
「時間を伸ばせば伸ばすほどオプションが付きます。つまりお金がかかります。それほどの相手を依頼したということですからね。ですが、きっとこの男はすぐ殺せます。ですがここで引き止めるのであればお金が更にかかりますが。」
依頼主は、いつの間にか掴んでいた私の袖を離すと、何も話さなくなった。
「それでは、行ってきます。」
依頼主が止めたり、騒いだりしないから行ってもいいということだろう。
私は、背中についた羽根を広げるとバサバサと飛ぶ。そして写真を見た。何度見ても相変わらず出っ歯だ。
この男は「佐賀雅俊(31歳)」。依頼主は「長崎響」と呼んでいたが、それは偽名だろう。明らかな詐欺だ。
にしても、詐欺をするならどうして写真を取るのか。まさか、こんなふうに写真が個人情報流出するとは夢にも思っていないだろう。きっと、詐欺師の意識が低いやつなのだ。
しばらく飛んでいくと、目標が見えた。「佐賀雅俊」だ。
そして、一人になるときを狙い、「佐賀雅俊」の前に降り立った。
「ひっ!な、なんだよ…!」
かなり怯えているようだ。それもそのはず、鉄砲を向けているのだから。
「今からあんたには質問してやる。答えによってはあんたは救われる。」
「佐賀雅俊」は何かを言おうとしていたが、それを遮るように質問をした。
「井上咲楽の元に戻る気はあるか?」
「佐賀雅俊」は、焦点の定まらない目をうまく私の方へ向けて言い放つ。
「誰だよ。そ…。」
「それ。」なんか言わせない。あくまでも私の依頼主だ。
私は鉄砲を放った。だがそれは外れたようだ。
「お、お前、俺を殺す気か?そ、そんなことができるわけ無いだろう?」
私は、鉄砲をもう一度向けると表情を変えず言った。
「最後に言い残すことは?」
「佐賀雅俊」は何かを感じ取ったようだ。もう自分は殺されるのだと。
「ゆゆゆっ、許さない…か、からな。お、お前の顔おおおっ、覚えたからな。地獄で思う存分呪ってやる!いい、井上咲楽だって、し、死んでもらう!!」
「それだけ。じゃあね。」
私は、「佐賀雅俊」の胸に弾丸を打ちはなつ。
「………!!」
その時、佐賀雅俊は何かを言い放った。私はそれを聞き逃さない。
「きちんとお代はいただきます。仕事はしますから安心してください」
赤色の液体が道路に流れる。私はそのまま羽を出し、「佐賀雅俊」とは違い、依頼主の元へ帰った。
もちろん依頼主は、死ぬ気だろう。ナイフを手に持っている。私は依頼主のそばへ近寄ると、ナイフを取った。
「っ、何をするんですか!」
「死ぬのを邪魔をする気はありません。ですが、結果に動揺して死んでもらっては困るので。」
「どうして!」
そんなこともわからないのか。
「お金をまだもらってないんです。」
「あ…。では結果は…。」
私は、ニコリと笑うと、依頼主は通帳を投げ捨てた。
「この中の残高すべて差し上げます。ですから、ナイフを返してください」
私は、にやりと笑うと、ナイフを依頼主に突き刺した。
「え…。」
「まだ聞こえてますよね。佐賀雅俊からの最期の依頼がありました。
「井上咲楽を殺してくれ。金は財布に入っている。」って。なので私は、それをしたまでです。恨まないでくださいね。」
依頼主…いやここでは井上咲楽というべきか。井上咲楽は目を大きく見開くと、小さく言い放った。
「ゆるさない…。依頼主を殺すなんて…。」
「仕事ですから。」
私は冷たく言う。でも。井上咲楽にはもう聞こえていないだろう。だが続ける。
「殺し屋は最期まで続けるべき仕事なんです。死ぬまで諦めちゃだめ。ですので。」
私は、ナイフについた血を払うと通帳を手にする。ついでに佐賀雅俊の財布も。
「殺し屋なんてホント早めたいのに…。」
殺し屋は代々受け継がれてきた職業だ。
「ゆるさないからね…。お母さん」
そういうと私は、事務所の椅子に座る。カラカラ。
ちょうどその時依頼人が入ってきた。
「いらっしゃいませ。誰を殺してほしいのでしょうか?」
今日もゆるされない仕事の始まりだ。
完
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