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プロローグ
いなくなれ、犯罪者、死んでしまえ。
その言葉に目が覚める。薄ら笑いでおれを見つめる顔が見える。頭を振り、少し汗ばんだ額を触った。
「また、夢かよ…」
誰もいない部屋で呟く。その言葉はどこに行くでもなく部屋の中をさまよっているように思えた。
あの時からだ。あの時から、良い夢を見ていない。
―夢さえもおれから奪うんだな。
立ち上がりキッチンへ行き、水を一杯飲んだ。そして、眠れそうもないので、部屋を明るくし、周りに置いてあった中から一冊の本を手に取った。
分厚く重みがある本だ。ほとんどの人が敬遠するその重みに安心する。
ページをめくり、読むことに集中しようとする。しかし、先ほどの夢が気になり、物語の中に入っていけない。
そして、少し昔のことを思い出す。仲が良かった家族、たくさんいた友人、充実していた学校生活。少し昔のことが遠い昔のような感じがする。
どうして、という思いが浮かぶ。
どうして、こうなってしまったんだ。どうしておれだったんだ。
時々、何もかも放り出して、ここから逃げたいとも思う。しかし、そこまで大胆なことはできない。そして、勇気もない。
窓辺に行き、夜空に浮かぶ、月を見上げた。
このまま夜でいいのに。
そうすれば、自分だけの世界に引きこもっていられる。そんな絶対に叶わない願いが頭に浮かび、笑えてきた。
明日は絶対に来るのだ。例え、何の希望がなかったとしても。
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