当たり前になっていたのに

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ありえねぇ。 ありえねぇ。 ありえねぇ。 家に着き、カバンをベッドに放り投げる。 ありえねぇ。 ありえねぇ。 ありえねぇ。 タバコを口に加えて火を点ける。 カチンカチンとなかなかライターが点火しなくで余計にイライラする。 「ありえねぇ!!」 そして、ついに叫んでしまった。 自分で自分の声のでかさにびっくりする。 でも、だって!! 「誘っといて先に帰るやつがあるか!!」 俺、本当に嬉しかったんだぞ! 受け身の海堂がご飯に誘ってくれたこと! なのに、まじで意味分かんねぇよ! ちらっと机の上の写真立てを見る。 そこにはずっと昔、付き合って2年位の時の写真が飾ってあった。 ライトアップされた遊園地をバックに2人でくっついて自撮りした写真。 そういえば、海堂が迷子になって必死に探したっけ。 今はその無邪気な笑顔に癒やされる余裕がない。 ドサッとベッドに座る。 あいつとはもう長い付き合いになるがああいうことされると本っ当に解釈に困る! 「い、いや、さっさと帰りたくなるほど俺と別れたいって考えるのが妥当か?」 その発想に、うっと青ざめる。 ていうか、なんで突然別れたいなんて言い出したんだ? 俺、何かしたか? 色々考えるがわからない。 もしかしたら俺が気づいてないだけで、海堂の中に不満が溜まってたのかもしれねぇけど…。 「にしてもなんで理由言わねぇんだよ……」 それも意味わからない。 普通なんて言うか用意してくるだろ。 なのに、あの「そんなこと聞かれると思いませんでした」って顔。 抜けてるどころの話ではない。 「あーくそ!!」 ばっと立ち上がる。 火を点けたばかりのタバコを灰皿に押し付ける。 「別れたいなら別れてやるさ!どこへでも好きな場所へ行けばいい…」 ラインを送りつけようとスマホを手に取る。 でも、 (…別れるのか、本当に?) メッセージを入力しようとしてピタリと手が止まった。 「なんで…なんだよ……」 もうすぐ付き合って10年経つのが本当にうれしかった。 あいつがいるのが当たり前になっていた。 この先もずっと一緒にいるのが当たり前だと思ってたのに。 海堂は、初めて会った日のことを覚えてるのだろうか。 俺たちが出会った10年前のことを。
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