序章

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序章

世界とはなぜあるのだろうか 神はなぜ世界を作ったのだろうか こんなつまらない世界、生きていてなんの意味がある? 『ツゥ...』 手首から血が流れてくる。 「昨日の夜切りすぎたのか...」 傷を作らないように加減していても、カッターは難しい。 まぁ、痛みはあまり感じないから良いのだけれど... 「親にでもバレたらめんどくさそうだな...              ..............って、ハハ!アハハハ、ハハ...」 あぁ、自分で行っておいて馬鹿らしい、 そんなことどうだって良いじゃないか。 『カツン カツン...』 立入禁止の屋上へ続く階段を登る。 高校3年生の夏なのに一つも汚れていない上履きの白さが目に入って、 気持ち悪くてその場に脱ぎ捨てる。 二年ぶりに浴びた光は眩しくて、暑くて。 まぁでもそんな感情も、今日で全部消える。 階段を何段か上がって。そこで、ピタリと足を止める。 もう目の前には屋上の扉がある。 背中に背負っていたリュックを足元におろして、 用意していたトンカチを取り出す。 そして、扉のガラスをめがけて思いっきり腕を振りかざす。 『ガシャンッ!』 一度叩いただけで、十分ガラスは広範囲に割れた。 しかし、かなりの音がしたから、 その音に気づいて誰かが登ってくるかも知れない。 俺は素早く割れた部分に手を入れて、内側からドアノブの鍵を開ける。 そして屋上に足を入れる。 「......ッ」 そこに広がっていた景色を見た途端、強烈な吐き気に襲われる。 「......っ!ぅ、うぇ、ぐっ、げほ......っ、ぅ」 コンクリートの床に吐瀉物が飛び散る。 2日ほど固形物を食べていないから、ほぼ胃液だったけれど それがなおさら酸っぱくて、吐いた跡も口に残った感覚が気持ち悪かった。 バッグから、水が入ったペットボトルを取り出して おもむろに蓋を開けて口に思い切り水を流し込む。 そして数秒口の中で回した跡、吐き捨てる。 それを数回繰り返して、空になったペットボトルを床に叩きつける。 『バキッ、ゴロ、ガララ......』 転がったペットボトルが止まるのを待って、ようやく前を見る。 そこに広がっていた景色は、あの時と何一つ変わらない。 「......ハッ、ハハッ、アハハ」 数秒前までの不快な気持ちとは裏腹に腹の底から気分が高揚する。 最ッ高の気分だ、 ここで俺は報われる。こんな糞みたいな二年間をぶっ壊せる。 アイツらに、俺なんかの二年とは比にならないくらい一生の傷を負わせられる。 柵に向かって歩いていく。俺のステージはあの場所だ。 完全に拭き取れず黒くなって霞んでしまっている、血の上。 地面を覗き込むと、生徒や先生が楽しそうに卒業アルバムの写真を取っている。 俺は無言でスマホをポケットから取り出す。 そして『 𝕏 』というありきたりな名前で配信をスタートする。 タイトルなんてつけない、誰かに見てほしいわけでもない。 この光景を、全世界中誰でも見れるっているのが面白いんだ。 100円ショップで買った白いお面を頭につけて、役に入り込む。 まぁ誰かはすぐバレるだろうけど、この方が面白い。 放送室で盗んだ拡声器を右手に持って、深く息を吸い込む。 さぁ、死祭の始まりだ_
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