空の下

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「てか、俺勝手にこっちに来ちゃったけど、場所あってる?」 「正反対」  出た、天然の和葉くん。思わず笑ってしまう。後で日菜に報告しよう。そう思えた時、ようやく緊張がとけてきた。  お店は3階の中央エスカレーター付近の雑貨屋さんだ。ここはコスメ、ファッション小物、キッチン雑貨、文房具等、女子が好きなものが詰まったお店なのだ。 「おばさんにはハンドクリームなんだよね?」 「そうそう。アルコール除菌とかで母さん手が荒れてるからさ。日菜がハンドクリームがいいって言ってて」 和葉くんはキョロキョロしている。さすがにこの店は居心地が悪いのかもしれない。 「日菜ってプレゼントするの好きだよね」 日菜は人が何をしてくれたら嬉しいかずっと考えてくれている。 「おれはハンドクリームならドラッグストアに売ってるって言ったんだけど、ここで買えって聞かなくてさ」  果穂は二人のやりとりを想像して思わず笑ってしまう。理解してくれないことに苛立つ日菜の顔が目に浮かぶ。 「ここのは香り付きでパッケージも可愛いからね。ほら」  淡いピンクのパッケージにローズや、ラベンダー等香り事に花のイラストが描かれている。 「ふーん。可愛いっていっても母さん40だけど、喜ぶのかな」 「女子はみんな喜ぶよ」 「女子・・・。ま、これで」 和葉くんは一番自分の近くにあったのを手にとる。 「あぁ。そんなに早く」  目的の一つがあっという間に達成してしまった。別れが近づいてしまう。 「?」  和葉くんは不思議そうな顔をしている。果穂のがっかりしている理由が和葉くんにはわからないのだ。  でも、今は感染症対策でテスターもない。これ以上引き留めようがない。 「あ、ちょっと待ってね。美咲の誕生日プレゼントプレゼントも買うんだ」 「聞いてる。キーホルダーにするんだっけ?」 「そうそう、タブレットケースにつけられるように」  和葉くん、近い。お店は所狭しと雑貨が並んでいて、お客さんも結構多い。自然と二人の距離が縮まる。手を伸ばせばすぐにでも触れられるくらい。果穂は耳たぶが赤くなるのを感じる。 「クマのぬいぐるみのキーホルダーいいなって日菜と言ってたの。このストーン付きのやつ。」  果穂は一つ手にとって見せる。小さなクマのぬいぐるみの首にリボンがついていて、そこにストーンがついているのだ。 「いいんじゃない」 「でしょ?何色がいいかな。私はピンクが可愛いと思うんだけど」 ストーンの色はピンク、ブルー、グリーン、レッド、オレンジ、パープルとある。 「小笠原はピンクのイメージないな。小笠原なら青じゃない?」 「確かにそうだね。ありがとう」 そう言って和葉くんはブルーのぬいぐるみを手にとる。隣のピンクに手を伸ばしていた果穂の手とほんの少しぶつかった。 !! ただそれだけで、心臓がビクンとなる。和葉くんの体温がほんの少し伝わってきたのだ。
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