二人の白球

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               side和葉 「和葉、ピッチャーやって!」  和葉にとって日菜は太陽だ。日菜の横では和葉は鎧をぬげる。学校で緊張した心をほどいてくれる。  和葉と日菜は双子だけど性格はずいぶんちがう。  日菜はよく笑ってよくしゃべる。和葉はマイペースで口数も少ない。里宮家でも話題の中心は日菜だ。もっとも、和葉がしゃべろうにも、日菜のマシンガントークで口がはさめないという節はあるが。  性格がちがうことで逆に仲が良かった。大人の受けは素直な和葉の方が良い。日菜の看病をしてえらいとよく言われる。  でも和葉にとっては「えらい」ことをしているという感覚はなかった。日菜が入院中の家は家全体が音を吸収してしまうかのように静かになってしまう。テレビの音も笑い声も発生した瞬間に消えて静けさが残るのだ。  日菜が太陽なら自分は月。太陽のおかげであたたまり、かがやける。和葉はいつも思っていた。 「へ、ヘビー!!」 「にせものにきまってるじゃーん!」 ただ、日菜のいたずらにだけはいつも困っていたが。 「それより和葉、部活何にするか決めたの?」 お決まりのドッキリが成功した日菜は目をきらきらさせて聞いてきた。 「もちろん野球部だよ!」 「よし!ついにだね!」 日菜は両手をあげて喜んだ。ベッドの上では日菜は本当に元気だ。 「ピッチャーになれるかな。レギュラーになれるかな。私全部の試合応援に行くからね」 自分のことのように目を輝かせる双子の妹。照れる気持ちはもちろんあるが、それでも和葉は日菜がいるから人の2倍がんばれる。 でも、少し気になることがあった。 「日菜も明日退院でしょ?日菜も中学に入ったらやりたい部活ないの?」  幼い頃に比べて日菜もだいぶ他の人と同じように生活ができるようになってきた。今日の入院も検査のためだ。 「私?私はいいよ。だって学校に行っても早退することも多いと思うし。中途半端に何かすると迷惑かかるでしょ。」 あっさり日菜は答えた。躊躇なく。心に一瞬さびしい風がふいた。どうしてだろう。自分が野球部で練習している間日菜は何をしているのだろう。 「それに私野球が好きなの。だから、和葉は私の分まで頑張ってね」
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