二人の白球

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 最近声変わりをした。今までいつも一緒に過ごして、一緒の夢を見てきた。でも、もう明らかに日菜と違う声が「別々の人間」だと言ってくる。同じじゃないよと。でも。 「日菜の分までかぁ。どうしよっかなー。」 違いについてうまく説明することができない。それよりも日菜の笑顔を絶やしたくなかった。 「お願い!『あと一球、あと一球』って言ってみたいの。」 「しょうがいないな。クッキーアンドクリームのアイスで手を打ってあげるよ。」  一瞬感じた寂しさは微かなもやだけを残して消えていった。小学生から中学生に変わるだけ。声変わりをしただけ。双子ということに変わりなはい。 「もう!人が下手にでたからって調子に乗って!」 「大丈夫だよ。最初のウイニングボールは日菜に渡すよ」 「絶対だよ。本当はヒーローインタビューも受けたいんだけど、それは我慢してあげる」 どうしてヒーローインタビューまで。口では日菜に勝てない。負けず嫌いの日菜がここにいる。 「というわけで、今日もピッチング練習と素振り100回するぞ!」 「おー!」 無機質な病院で、二人の笑い声が咲いていた。
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