48人が本棚に入れています
本棚に追加
5・香奈→告白⑤
楡井が話し出す。
俺と朝倉は、通う中学校は違ったけど、塾は中学1年生から同じだった。
朝倉は真面目で、塾でも勉強ばかりで。
あまり誰とでも話すってほうではなかったけど、俺とは志望校が同じって分かってからは話すようになって……。
でも、同じ高校になっても、クラスも違うし。
おまけに、高校に入ってから朝倉は、男には一切かかわらないような、そんな空気を醸し出してきてさ。
だから、朝倉が塾の自習室で勉強する様子や、塾の同じクラスの女の子と話す様子は知っているけど、でも、まぁ、それだけっていえばそれだけ。
塾の講師に、俺の兄がいた。
朝倉は、同年代の男は避けていたけど、兄は講師だし年も上だし、立場の違う奴なら男でも平気みたいで、結構普通に話していた。
朝倉は、兄に相談もしていたみたいだ。
芦田とのトラブルも、実は兄から聞いた。
学校ではどんな感じなの? って。
結局、朝倉と芦田との事は、担任の先生が入りとりあえずは解決したと、それも兄から聞いた。
でも、あるとき、朝倉が塾の帰りに足を引きずっている姿を見たんだ。
他の奴に聞いたら「塾の階段で滑ったらしい」と返ってきた。
まぁ、確かに朝倉は動作が大人しいから、そういったぼんやりとしたことがあったのかなぁと、気の毒に思いながらもスル―して。
そのあとから、朝倉は兄とさえ話さなくなった。
あれっ? って思った。
兄に聞くと「まぁ、思春期の女の子って気まぐれだしね」なんて、軽い言葉でしか返ってこなかった。
兄は、そういうひとなのだ。
塾では教え方がいいとか、わかりやすいとか、人望が厚いと評判で、あちこちの教室に出向いて教えているけど、生徒個人に関しては超ドライで、あまり深く付き合わない。
でも、俺は 朝倉の様子が、なんか気になった。
だから、朝倉に思いきって聞いたんだ。
「なんか、あったか?」って。
最初のコメントを投稿しよう!