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5・香奈→告白⑥
楡井の言葉の端々から、笙子への労りを感じた。
姉として素直に嬉しい。
楡井っていい奴だ。
「笙子を気にかけてくれたんだね。ありがとう、楡井君」
「そりゃ、なんか、気になるし」
それだけじゃないでしょっ、て突っ込みはしないで黙る。
頼もしいじゃない、楡井。
「でも、朝倉、何も話してくれなくて。そりゃ、いきなり、俺からそんなこと訊かれても答えようがないとは思うけど」
「笙子らしいといえば、そうなんだけどね」
「……うん。だから、俺、注意して朝倉を見るようになった。そしたら、朝倉が、ちょこちょこと怪我をしていることに気が付いて。指先を切ったりとか、擦り傷があったりとか。絶対におかしいと思って、朝倉のあとをつけたら、塾の廊下の隅で、朝倉が手紙を読んでいて」
手紙!
「それいつ?」
「たしか、6月」
「それ、どんなだった?」
「どんなのって。……手紙だよ」
「もう、だから、どんな手紙かって聞いてるの」
すると楡井は、眉間にしわを寄せた。
「白い普通のやつだよ」
楡井の言葉に、がくりとくる。
「でも、書いてあったことは覚えている」
「それが聞きたかったんだってば。続けて、続けて」
「朝倉が俺に気付いて、びっくりして、手紙を落としたんだ。便せんが、ふわっと、俺の足元に落ちてきてさ」
「それで、何が書いてあったの?」
「うん。変なんだよ。真っ白い便せんに、日にちと時間しかなかったんだ、その手紙」
体中の力が抜けた。
椅子の背にもたれかかり、天井を仰ぐ。
あぁ、神様。
ありがとう。
もう少し。
もう少しだ。
笙子を光の中に。
わたしの手で。
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