23.リスタート【restart】

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「オレの奥さんもね。常にオレをちゃんと見てくれていてサポートしてくれる人でね。それは同期の頃も今でも変わらない。なんか一ノ瀬と杉崎を見てると、そんなオレたちと重なるとこがあってな。お前ら的には昔から相性良くないってよく言ってたけど、案外オレらと同じで相性はいいかもしれないぞ?」 芹沢部長は、きっと何気なく世間話程度で話しているのだと思うけど。 あたしの胸には一つ一つずっしり響いて。 その話があたしと杉崎に重なって、少し切なくもなり、少し勇気づけられる。 芹沢部長と奥様は、そんな風にお互い惹かれ合って、今も一緒に同じ幸せな時間を過ごしていることに、素直に憧れてしまう。 仕事上では、確かにお互いがそんな風に支え合えてたかもしれない。 だけど、あたしと杉崎は、芹沢部長のところみたいに、男女としては惹かれ合わなかった。 いや、正確に言えば、杉崎だけがあたしをそんな風に見ることが出来ないということか・・・。 相変わらずその現実は変わらないし、その事実を何度も実感しては、気持ちは落ちてしまうけど。 でも、そうやって誰か他の人から見ても、あたしと杉崎がそんな風に見えてるということには、嬉しく感じる。 仕事上のパートナーとしては、こんなあたしでも杉崎に相応しいのかもしれないと、少し自信が生まれる。 あたしさえ、余計な気持ちを持たなければ、案外最強のパートナーとかになったのかも。 今回ペアになったことで、前よりもお互い信頼し合えて、きっとその気持ちさえなければ、もっと仕事にも集中が出来て、割り切った関係になれていたはずだから。 あたしさえ、この気持ちに気づきさえしなければ・・・。 「まぁまだまだこのプロジェクトは続くからな。杉崎は別のプロジェクトの掛け持ちだから、一ノ瀬が一人でやらなきゃいけないことも増えるかもしれないが、そこはお前らがお互いサポートし合って頑張ってくれると期待してるからな」 「はい。頑張ります」 「それじゃあ。まぁ今日はゆっくり楽しんでけよ」 「はい。ありがとうございます」 そして部長は席を立ち、また別の場所へと移動していく。 結局、あたしと杉崎の今までの関係が終わったとしても、仕事上では離れることなんか出来なくて。 自分でもそんな杉崎と一緒に仕事をやれるのは楽しいしやり甲斐がある。 ただ杉崎があたしを好きになれないということを除いては、きっと多分杉崎とやっばり相性はいいような、そんな気がするから。 あたしのことは一番杉崎がわかってくれていて、あたしも杉崎を一番わかってる。 結局きっとずっとそれがあたしたちの変わらない一つの絆みたないなモノで、お互いそれを感じ取っているから、すべてを終わらせることが出来なくて、どこかで繋がっていようとしてしまう。 見なくていいモノに目を塞いで、支障のないことではお互い共感し合える。 きっと、何か決定的な言葉をお互い口にしたら、根本的に繋がっていたいそんな繋がりでさえも、壊してしまいそうな、そんな予感がするから。
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