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「うん。ホントはさ、向こうは最初に担当した澪に直接クレーム言おうとしてたんだよ」
「えっ・・?」
「いや、それも実際は、澪が悪い訳じゃなく、向こうの都合で別のと差し替えたくて、そう騒いでただけなんだけど」
「そう・・なんだ・・・」
「でも、それを対応するには、こっちも代替案が必要でさ」
「そこまで・・?」
「うん。案外めんどくさい相手だったから、とにかくそれを企画した澪に難癖つけてクレーム言って、向こうの都合よく進めたかったみたいで」
「あたし。そんなの言われてないよ・・?」
「そう。それを全部杉崎が丸ごと引き受けたんだよ。今別の仕事で大変な時に、澪に負担をかけさせて無駄に傷つけさせたくないって」
「そんなのあの時一言も・・・」
「うん。あーいうヤツだからさ、それをもちろん澪には伝える気はなかったし、それで実際解決出来ちゃう男なんだよ、杉崎は」
何年越しかに初めて知る真実。
亜希から聞かなければ、ずっと知ることのなかった真実。
「当時から杉崎は、ちゃんと澪のこと見てたと思うよ。だから、無意味に澪を傷つけるようなそんな適当なこと、多分あいつはしないと思うんだよね。それをあいつが一番嫌がってたことだったからさ」
そんなこと全然知らなかった。
あの時の杉崎とは、今よりもちゃんとまともに話すこともなくて。
ただ仕事上での話を最低限するだけ。
たまに亜希や塚原と飲みに行ったりするくらいだったけど、なんとなくその頃は、あたしが杉崎への対抗意識というか、見た目から醸し出すクールな印象なんかもあって、あたしもそこまで必要以上なことは話そうとしなかったし、杉崎も同じだった。
なのに、杉崎はあたしの知らないところで、そんなフォローを入れて助けてくれてたってこと・・?
なのに、あたしは張り合って自分だけ頑張ってたような気になって・・・。
そんなの知らないで、あたしは・・。
杉崎は、もうそんな頃から、もしかしたら、ちゃんとあたしという存在を認めてくれていたのかもしれない。
あたしが気づいてない頃からずっと・・・。
たとえ、それがあたしの望んでるような気持ちと違ったとしても、その頃からあたしという人間の中身にちゃんと気づいてくれてたとしたら・・・。
あぁ・・。やっぱりあたしはどこかで間違えたのかもしれない。
あたしさえ、好きだなんて気持ち持たずにいれば、そんな気持ちに気づきさえしなければ、あたしが一番望むことを与えてくれていて、そんな存在でいてくれた。
杉崎は、ちゃんとあたしという中身をわかってくれて、ずっと接してくれていたのに。
あたしは、昔は素直になれずに、ちゃんと杉崎の中身を知ろうともしなかった。
そして、今はやっとそんな杉崎を知ることが出来たのに、好きという気持ちを持ってしまったがために、あたしはそれ以上の気持ちも、関係も欲しくなってしまった。
今更ながら、杉崎と距離を置こうとした自分に後悔し始める。
あんなこと言わなければ、杉崎はあたしに愛想も尽かさなかったし、離れようともきっとしなかった。
自分の気持ちが定まらなくて、素直になれなくて、自信がなくて、結局そんな変わらない自分のままいたことで、ふとした一言を口にしてしまった。
それが、こんなにも後悔してしまうなんてわからずに・・・。
だけど・・・。ずっと守っていた境界線を壊してきたのは、杉崎で。
今までみたいに、あたしが杉崎の特別になりたいと意識なんてさせなければ、きっとあたしもあんな気持ち溢れることもなかった。
勇気を出して、その境界線を超えようとしたあたしをまた防御したのは、あいつだ・・・。
結局あたしが近づこうとすれば、離れようとする。
なのに・・・あたしが好きだなんて言葉、言えるはずなんてないじゃん・・・。
これ以上、杉崎との距離感じたくない・・・。
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