エンドライン

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後悔するぞ、いざお前の前からいなくなった時に。 意気地なし。自分に素直な分、俺はお前より強い」 俺が教室から出ていくと、目の前に人影が現れた。 教室を覗いている。 「森山くん、こんなとこにいたの。あ、裕二も一緒だったんだ?」 俺はそのまま中村の前を横切った。 「悠一は用事があるから、先に帰れってさ」 中村の手を掴んで連れて出た。 彼女は戸惑ったまま手を振った。 「じゃあ、森山くん。明日ね」 「うん。明日」 教室から遠ざかると手を離した。 「ちょっと…待っ」 「ごめん、強引に」 背後から力のない声がした。呼び止めたければ、追いかけてこいよ。 「森山くん?」 彼女が振り返らないように声をかけた。 「中村の家ってこっちだよな」 本当俺って性格悪いな。 彼女は俺の話に耳を傾けている。 「ねぇ、さっき何の話してたの?」 「え、あぁ委員会のことだよ」 男の間の秘密だからなと釘を指しておいた、第一悠一が自分から言うと思えない。 「そっか。二人ともすごい怖い顔してたよ」 「真剣に話してたからだよ。ところで、中村は彼氏作らないの?ほら、中村って結構人気あるからさ」 彼女は首を振った。 「はぁ?何言ってるの。人気なんてこと聞いたこともない。 でも、彼氏は作れるんなら作りたいよ。なりたいなんて人はいないだろうけどね。いたら物好きだなぁ」 俺はどうせ脇役なのにキューピッドなんかやってやるものか。 ここで言わないといつ言うんだよ。心臓の鼓動が頭に響く。 「そうか、だったら」 「ごめん。私の家こっちなんだ。その話明日聞いてもいい?」 心がチクリと痛んだ。 「大したことじゃないから。バイバイ明日な」 …っ意気地なしは誰だよ。徹にいっておいて。 なんで呼び止めて今日聞いて、今聞いてって言わなかったんだ。 歯ぎしりは自分に向けての悔しさだった。 *** 「っ…くっそ。俺は何なんだ」 なんでこんなに動揺して、思わず呼び止めてしまった時の中村の心配そうな目が胸に刺さる。 俺は、中村が裕二と二人きりで帰るのがどうしても許せなかった。それは、俺の中の何かが拒否していたのか。 ”恋心“という文字が浮かんだ。 「まさか、そんなこと」 ただの責任感がどう変化して恋心に変わったのだろう。 やっぱり、あいつの一生懸命さか。 今日電話しないと、中村が取られてしまう。 焦る心で携帯を開き発信した。 しばらくしても応答がない。 やっぱりダメかと携帯を閉じたと同時に携帯が震えた。 「森山君ごめんね、お風呂入ってたの。何か用事?」 「いや、なんか話がしたくて。時間ある」 「あるよ」 中村は俺の従兄弟のまた離れた従兄弟で、近所に引っ越してきた。 親戚で同じクラスでもあり、面倒を見ている内に仲良くなった。 「今日は暗い顔してたね。大丈夫」 「うん。全然大丈夫。ずっと中村のこと考えててさ」 口を滑らせたかと思い口を塞いだ。 「じゃなくて、中村が学校に馴染めてきてよかったなって」 「そうだね。今すごく楽しい。 今度の肝試しも楽しみ。遅いからもう寝るね。おやすみ」 「うん。おやすみ」 消えた画面を見つめていた。 「森山くん、ちょっと千遥借りるね」 帰る仕度をしていると、春と美咲が私の腕を掴んだ。 「俺も行こか、帰り遅いとおばさん心配するから」 私が森山くんも一緒に行こうと言いかけたが、春が言葉を遮った。 「森山くんはいいよ~。女子会するんだから。 大丈夫、責任とって帰るときは送って行くからね、いいでしょ」 私が何も返せずにいるとそのまま引っ張られるようにカフェへついた。 「ふぇーすごーい」 駅前に新しいカフェができていた。 「ここのカフェすごく人気なの。 予約とってあるから待たずに入れる」 席に案内されると早速、メニューを開いた。 「何がいい?」 「何って?」 「ほら、メニューよ」 「私わかんないや。オススメにしてくれる?」 「千遥ってそういうとこあるよね。 疎いっていうかさ。じゃあ、季節の苺たっぷりパンケーキとキャラメルチョコパンケーキ一つで。 春はいつものアサイーボウルでいい?」 「うん。それで」 秒速で注文をし終えた。さすが春だ。 こういうとこは慣れている。 「ところで、なんだけど。 ねぇ、千遥って正直言って地味だけど男子には人気あるわけ」 「それって褒めてんの?」 向かいの友人の顔を見返した。 「やっぱりこんくらいの時期になってくるとさ、色恋沙汰がそろそろ出てこないのかなーって」 「色恋沙汰?」 「ごめんね、遠回しすぎて。だから、好きな人はいないのって聞いてるの」 「え、好きな人」 思わず顔が赤くなる。 無意識に考えてあの笑顔を想像してしまって駄目だ。 本当は、あの時帰るのが遅いと心配だからついていくなんて言われて嬉しくなかったなんて、嘘だ。 「あれれ、その顔はいるなー。やっぱり裕二?」 「いや、それは違うけど…裕二は友達だし」 慌てて否定すると二人はニヤニヤと笑っている。 「けど?気になってるわけ。 だって、裕二は満更でもなさそうでしょ」 「裕二も何とも思ってないって」 二人は顔を見合わせた。 「あのバレバレの態度に気づかないとか、あんた本当に鈍感ねぇ。ところで」 いきなり話題が変わったことに少し安堵した。 「森山くんってさー、何か好きな食べ物ある?」 思考を巡らせて、言ってたことを思い出す。 「クレープって言ってた」 二人は黄色い声を上げた。 「えー、可愛い。ギャップが良い!」 「ギャップって良いの」 「ほら、例えば真面目だと思ってた子が天然だったとか。 クールに見えてめちゃくちゃ動物好きだとか。 普通に動物好きより好感度上がるじゃん」 私はまだ納得していなかった。 だって森山くんは森山くんそのままなんだから。 「よくわからない、何がいいの?」 「親近感沸くじゃない。 それに、新たな顔が見られるみたいな」 「そんなもんかなぁ」 「そんなもんよ」 運ばれてきたパンケーキに手を伸ばした。
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