エンドライン

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夏祭りは一年に一度のビックイベント。 男子から誘うことが多い、女子はこの日一日そわそわしている。でも、6割は同性で行くはめになる。 私達はグループで行くから関係はないのだけど。 「これはグループワークでやってもらいます」 裕二と隣り合わせで問題を教えてもらう。 私はどうやら数学が苦手だ。いくら考えても進まない。 いつも困って裕二に教えてもらっている。 森山くんに聞くこともあるけど。 「あー何これ。わかんない、裕二ここは」 「ここはここと合わせて、ここの個数で割るんだよ」 「ふんふん、なるほど。で、ここから出せるのか。 数学って難しいー」 真面目な顔してカリカリとシャーペンを動かしていた。 「あのさ、中村」 「ん?」 さらりと耳に髪をかけた。 「よかったら、俺とお祭り行かない?」 予想外の言葉にぽかんとしてしまった。 裕二は少し慌てたように頬をかいた。 「やっぱり嫌?」 私は頭を横に振り笑った。 「わかった」  裕二はガッツポーズを取った。 森山くんの浴衣姿を想像して心臓が鳴る。 帰り道、なんだか薄暗い町。 黄昏時ってこういうときのことか。 「あの、お祭りのことなんだけど、裕二に誘われて」 春が大袈裟に呟いた。 「そっかぁ、残念。千尋は先客いるんだっけ。 じゃあ森山くんは私と行かない?」 森山くんは顔色を変えずに言った。 「あぁ、わかった」 セカンドチャンスなのに、私はまた別ルートに行っている。 「いつも通り六人で行くでしょ?」 「いや、裕二に悪いし。二人で行ったらいいやん」 私の次の言葉を遮るように、森山くんは目をそらした。 「じゃあ、寄り道するからここで。また明日」 森山くんの後ろ姿を見つめていた。 肝試しの日、当日。 制服以外はいつもはショーパンだけど、スカートにしてみた。 いつもとちょっと違うと思われたい。 「こっちこっち」 春と美咲が手を振っていた。 「おまたせ」 「スカート珍しいじゃん、似合ってる」 美咲が真っ先に褒めてくれた。 「ありがと」 恥ずかしいけど嬉しい。 美咲は大人っぽく、春はふわふわガーリーなレースのスカートだった。私の唯一のスカートじゃ勝てない。 男子三人が到着した。 遠くから健が手を振っている。 森山くんはちらりと私のことを見た。 「よーし、それじゃくじにするか」 ひらりと目の前でスカートが動いた。 「じゃあ、私は森山くんと」 「やるなぁドストレートにアプローチか。 じゃあ、俺は美咲と行く」 「なんでよ」 こちら二人のやり取りもよく見る。 両想いなんだろうけど、先に進まない。 残りの裕二と私がペアになった。 森山くんがすれ違い際に呟いた。 「スカート、らしくないな」 「らしくないってなによ」 見てほしかったはずの森山くんにそんなことを言われると結構傷つく。 幼なじみの裕二は二人でも気負わず話せる。 彼はにこりと笑って私の横を歩いた。 墓地を通って廃墟の中を一周し帰ってくることになった。 勿論、雰囲気は怖いけど昔四人で行った日本最長のお化け屋敷よりましだ。 出たら出たで怖いけど出る確証がない分怖くない。 「あのさ、ぶっちゃけ悠一のことどう思ってる」 「え?友達だけど」 「本当に悠一と山下さんが付き合ってしまうかもしれないけど、いいの」 「なんで私に聞くのよ、森山くんと春の恋愛なら応援する。 遊べなくなる訳じゃないし」 裕二が疑うような眼差しで見る。 「男だし女の子に告白されて悪い気はしない。 今日の肝試しで告白するって言ってた。 俺は悠一はずっと千尋のこと好きなんだと思ってた。 千尋に相手にされなくて諦めたんだと思う」 「なんで」 裕二が笑う。 「だって、あんなに面倒見るのって千尋ぐらいだぞ。 俺達には割とクールだし。余程、一緒に居たいんだ」 本当にそうだったら嬉しいのに。 「あのさ、それだったら。俺と付き合う」 「いまなんて」 「だから、俺と」 物陰から何かが飛び出した。 驚いて、走って逃げるとどこか分からない場所にいた。 「裕二どこ」 完全に迷子だ。こんなに真っ暗な中で一人で歩くのは心細い。 元の方向に戻ってみたが誰もいない。どうしよう。 ゴールの方へ歩き進める。 懐中電灯の灯りが少し先で動いていた。 ほっと胸をなでおろして近づく。声が近くなる。 神社の門の前を通った時、丘の下の公園に男女の影が見えた。 「どーしたの。森山くん」 心臓がはねる。 「山下、門限は」 「親を説得して、あと1時間はいいって」 森山くんと春が並んで座っている。 「あのさ、私と森山くんが初めて出会った時覚えてる?」 「中学1年の頃やったっけ。3年も前のことや」 「私が物を無くした時に、一緒に探してくれて。教科書を忘れた時は友達のいない私に貸してくれたよね」 「そんなこともあったっけな」 「私の我が儘全部聞いてくれて…本当に」 「そんな我が儘聞いた覚えもないけど」 「私、あの子みたいに初心じゃないよ。もう3年間も恋してるの。ベテランなんだからね」 「あの子って、中村のこと? 中村は、やっぱり裕二が好きなんか」 春の方を見ると、腕が震えている。 「こんな時に、そんなことどうでも良いじゃない。 なんで、気づいてくれないの。私、今すごい震えてる」 「少し冷えてきたな。俺の上着貸すから、明日返せよ」 森山くんに上着をかけられて、春の瞳から涙が溢れた。 「…っう。優しくしないで。 この震えは緊張してるんだから。 森山くん。ずっと森山くんのこといいなって思ってた。 気がついていると思うけどちゃんと言うね。 私は森山くんのこと会ったときからずっと好きでした。 私を彼女にしてくれませんか」 聞いてはいけないのに聞いてしまった。 「この間も言ったけど俺は山下とは付き合えない。 勿論、山下がタイプじゃないとか無理ってことじゃないけど。彼女は作らないから」 「あーあ、やっぱりそうだ。森山くんの嘘つき。 直に分かるよ。千尋が友達じゃなくなる。 ずっとそんなこと言ってらんなくなるよ。 千尋が居なくなったらどうするの。 千尋は裕二と付き合うから。 私、森山くんのことがずっと好きなの。 でも、森山くんはいつも違う子をみてる。 私は振り向いてもらえるように人一倍の努力でオシャレだってしたのに」 「俺が好きやったんは、人の悪口を言わず真面目で静かな 山下春って子や。 今は、裏で手を回すようになって…そんなの山下らしくないやろ。無理をするのはやめれば」 「そうだね、いい加減派手な格好して皆の輪に溶け込もうとするなんてやめちゃおう。 私はまだ森山くんのこと諦めてないから」 そういうと、きびすを返しこっちに向いてやってくる。 咄嗟に物陰に隠れた。春はそのまま集合場所に戻った。 森山くんが私のいる方を向いた。 「どうせ、ついてきたんやろ。てか出てこいよ」 「奇遇だね。こんなところで会うなんて」 彼は私の顔を見て目を開いた。 「なんで泣いてんねん。どうかした」 「ううん、何でもない」 なんで涙が出ているのか分からない。 「やっぱり怖かったのかよ。ほら、泣くな」 「バーカ、そんな訳ないでしょ。ほら、アイス買いに行こう。奢ってくれるっていったじゃん」 私は腕を掴むと歩き出した。 「そういうこと言ったっけな。こら、引っ張るなって。
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