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エンドライン
人通りの多いこの道路はいつも賑やかで人であふれかえっている。
電車に乗っているけど、今日は出勤なんかじゃない。
高校時代の友達の結婚式に行くのだ。
先日、急に届いた旧友からの招待状に地元で独身ライフを満喫している私は驚いた。
いわゆるクラスカーストと言われる中で、私と同じくカーストにさえ入れてもらえないところに所属し、容姿ははっきりしない頭はイマイチのあゆみが同級生の中で1番早くに籍を入れたのだ。
私よりも早く結婚するとは思わなかったショックに電車の吊り革に頭をぶつける。
相手であるお婿さんがイケメンであれば、間違いなく不機嫌になるだろうな。
式場はインターネットで調べてみたが、高級一流の新築の教会だった。
美しい色とりどりのステンドグラスで装飾され外装は有名な建築家の設計らしい。
私も将来はこんなところで式を挙げたいな。
まぁ、挙げてくれる相手が現れるのかどうかが先だろうけど。
悶々と考えている内に会場に着いた。
会場に入る前にドレスに乱れがないか、確認する。
誰かの結婚式で着るためにこのドレスを買ったけど、まさかあゆみの式が初めて着るとは思いもしなかった。
受付にはあゆみのお母さんがいる。
「あら、千尋ちゃんやないのー。まぁ、べっぴんさんになって。わからなかったわぁ。わざわざ来てくれてありがとうね。あゆみも喜ぶわ。」
「お久しぶりです。この度はご結婚おめでとうございます。」
「ありがとう。後であゆみにも話しかけに行ってね。毎日のように千尋ちゃん、千尋ちゃんゆうて話ししとったんよー」
「はは、小学生の頃の話しでしょう。
是非後で話しかけに行ってきます。」
会釈をしてその場から離れた。
このお母さん話し長いからなぁ。
私は久々な再会に嬉しながらも、苦笑いした。
毎日家まで送っていくと、あゆみのお母さんが出てきて「あがっていきや」って家に入れてくれて、冷たくて美味しいジュースとケーキをご馳走してくれていた。
なんだかんだ、それが目的だった事もある。
陽気な方だから、あゆみと話すよりも楽しかったのだ。
後ろから聞き覚えのある声がする。
この声は、と考えていると後ろからタックルされた。
「うわぁ、もう冬花。相変わらず勢いが凄い。」
「えへへ、久しぶりー。元気やった?」
「元気元気。冬花も卒業以来やね。変わってへんなぁ。」
このこは冬花。幼稚園からずっと高校まで一緒で、明るく無邪気で可愛い。
「そんなことないー。私やってもう22やもん。ちなみにまだ独身。
そーいえば、さっきあっちで美希と会ってんけど綺麗なブランドのドレス着てた。新婦より目立ったらあかんのにねぇ。さすがや」
と笑う。
「あの子は小学生の頃からきらびやかな服ばっかり着てたもんね。
おじいちゃんが社長やからって」
半分あきれて笑う。
私達より恵まれている事への嫉妬はないことはない。今も昔も変わらず。
幼稚園の時の話。
暑い真夏の日に私は冬花と美希とあゆみと遊んでいた。
歩いているときに、アイスを落としてしまった。
「どーしたん?千尋ちゃん?」
思わず、泣き出してしまった。
「うっ、お母さんにもらったおこずかいを貯めてやっと買えたアイスやのに。」
「アイスいる?おじいちゃんに何本でも買ってもらえるからええよ。」
「本当?」
そして、美希は私の手を引いてアイス屋の前に行った。さっきまで美希といたおじいさんがやってきた。
「美希、どーしたんや。」
「おじいちゃん、千尋ちゃんがねーアイス欲しいって」
「そうか、おじいちゃんが買ってやるさかいにな。」
その時はおこずかいがなかったし、アイスが貴重だったから、美希の行動には凄く感動したことを覚えている。
今思えば、孫の友達にアイスの1本奢るのは珍しいことではないけど懐の広い人なんだろうな。
「そろそろホールに入ろう。」
「そーやね。どこ座ろうか。」
前の方は親族が占領している為に後ろの方に座った。
会場の電灯が落ちて、スポットライトに照らされた司会者の挨拶が始まった。
順序よく進み、とうとう新郎新婦の登場になった。
暖かい拍手に迎えられ、騒がしくなってきた。
あゆみは10数年前と比べて格段に美しくなっていた。
あの頃と変わらず、今流行りのピンクや柄ではなく王道の純白のウエディングドレスを選んだのだ。あまりにも綺麗な衣装を身につけているから、どす黒い感情が出そうになった。
でも、今日は久しぶりの同窓会だと思って楽しまないと。
続いて階段から降りてきた新郎の顔を見た。一瞬息が止まり、世界がグルグル回り始めた。よく知っていた顔だった。
彼は森山先生。
「ちょっとお手洗い行ってくる」
席を立つと、二人は壇上を見たまま頷いた。
私は個室に入るとハンカチを握りしめた。
ドレスの膝に雫が落ちる。どうしてだろう。
それに友人の結婚を応援出来ない。
私の初恋は崩れ落ちた。
「大丈夫?戻れそう?」
扉の前に冬花が立っている。
「うん。もう大丈夫。すぐに戻るから」
時計をみると20分経過していた。
「体調悪かったらすぐに言ってな」
「ありがと」
涙の跡は乾いていた。個室を出て、庭に向かった。
晴天で風が気持ちいい。
庭のベンチに腰かけると、ガラス張りの式場の中が遠くに見える。
盛り上がっていた。私があの人の横に居たかった。
今となっては後悔が募る。
顔を合わせても、廊下ですれ違っても会釈をするだけ。
ちゃんと話をしたのはこの時が初めてだった。
私がいつも放課後の定位置である図書室に行くと、森山先生も入り浸っていた。
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