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朝、駅のトイレに向かった。3つある個室はすべて塞がっていて、その手前には行列ができていた。俺は最後尾に並んだ。明らかに1番前の男よりも、2番目の男が限界に近いように見えた。
(変わってあげて)
俺は列の後ろから2番目の男を観察した。彼は体を小刻みに動かし、ポーチを強く握りしめている。漏れる苦しみを必死に誤魔化しているようだ。まるでリズムに乗っているようだった。
(ノッているな……)
ようやく1つのドアが開いた。1番前の男が中に入り、次は限界に近い男の番だった。彼はふらふらと動き、エアドライヤーに手を触れて反応し、風が吹いた。そして苦しみの余り、傍の洗面台に覆いかぶさるように俯いた。
しばらくしてから、真ん中のドアが開いた。限界男は俯いた状態のまま、その事に気づかない。すると、突然、列に割り込むように強面のおっさんが現れ、開いたドアへ直行し、勢いよく閉めた。
「えっ!?」
限界男は驚き、即座にそのドアに向かって怒鳴り始めた。
「おい! 並んでたんだぞ! なんで入るんだよ!」
彼の怒りは激しさを増し、ドアを何度も叩きながら、さらに大声で叫び続けた。
「おい! 横入りするな! ふざけるな!」
その間、俺は列の先頭になり、すぐに左側のドアが開いた。
(行くしかないだろう、列に並ぶのを諦めたわけだし)
恐る恐る個室に入ったが、ドア越しに限界男の激しい怒鳴り声が聞こえてくる。
「並んでたの、見てたでしょ!」
(やばい、怒ってる……めちゃめちゃ怖い……)
「並んでたんだって!」
声の調子が激しさを増し、さらに他の声が聞こえた。
「オナカさん、もう行くよ」
(オナカさん……名前なのか?)
限界男オナカは反論を続けるが、その後も怒りを抑えられない様子だ。
「オナカさん、電車が出るよ!」
「俺もう出るうぅ!」
その叫び声が駅中に響き渡った。めでたしめでたし。
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