光溢れて

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光溢れて

 その日、エトールク公爵家には光が満ち溢れていた。若き女当主リデルは公爵家の使用人のみならず社交界からも羨望と敬愛を受け、彼女と心を交わすレオンス男爵家当主ナタンはリデルに唯一の愛と献身を誓っていた。  リデルは十九歳。色素の薄い金髪に、ローズクォーツのような薔薇色の瞳を持つ美少女である。儚げな外見とは対照的に、急死した父親から公爵家を継承すると、愚痴も弱音も吐かずにひたすら領民たちの安寧のために働いた。  ナタンは二十歳。この国では珍しい黒髪、黒瞳を持つ長身の青年である。貴族とは名ばかりの貧乏男爵家に生まれ、ナタンの母がエトールク公爵家の侍女をしていたことから幼少期よりリデルとは既知の仲であった。  リデルもナタンも天涯孤独の身であり、若くして爵位を継いでいる。王族の血が流れる筆頭公爵家のリデルと貧乏男爵家のナタンには天と地ほどの身分の差があり、また既に爵位を継いで当主となった者同士の恋物語は貴族社会では異例であった。しかし、領地に善政を敷き、貧しい者や孤児たちに寄り添い支援をした女公爵とそれを助けた男爵の恋愛は、その功績もあって、徐々に貴族たちの間で認められるようになっていったのだった。
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