第二章 調合

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しかも不純物の多い素地は、冷めるのが早い。純正のものであれば冷めるまでに二分かかるのに対し、琉球ガラス職人に与えられる時間はわずか二十秒だ。 だが、そんな独自の環境と製法が生み出した色合いと気泡こそ、今となっては琉球ガラスの特徴となっている。素朴でありつつ美しい、個性的な商品として駐屯兵の帰国時の土産にもなり、やがて本州にも輸出され、人気を博した。 現代では重曹以外にも、カレー粉や黒糖を調合時に放り込む技術も開発されている。洗浄した瓶を砕いて作ったカレットにわざと不純物を混ぜ、オリジナルの風合いを出すようにまでなった。実際の色よりも白っぽく見えるのは、気泡が取り込んだ光を乱反射させるためだ。 透き通った青色と、その中に閉じ込められた気泡が沖縄の海を思わせ、まさしく伝統工芸の名に相応しいと言えるだろう。 「──そんで、一九九八年には、沖縄の伝統工芸品として登録されたと」 「……よく知ってますね」 理久は思わず押し出すように言った。義史の口から語られる琉球ガラスの歴史に舌を巻いたのだ。 「勉強したからさ。ちょっとだけ」 インターネットや書籍、知人からの聞き取りで知っただけだと言うが、理久の目には博識に映っていた。 工房に来て三年になるが、ガラス製作に打ち込んでいるつもりはなかった。今日のように客の案内をするために、必要最低限の知識を暗記しているに過ぎない。 理久は再来月で十八になる。一九九八年が自身の生まれ年である事にも、必然性や運命めいた縁は感じられなかった。
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