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と、作品を見ていた義史が理久の方を向き、ひょいと片手を挙げる。
「はい、理久先生。質問があります」
真面目な表情と、〈先生〉とおどけて呼ぶ口調は何ともちぐはぐであったが、理久はその事について上手く反応できなかった。
「赤は、あんまり人気ないのかな? 今、たまたま少ないだけ?」
眼鏡を掛け直した義史と共に、棚に並ぶ作品へと視線を移す。青、緑、茶をはじめ、水色やオレンジなど、鮮やかに着色されたガラスは目移りするほど見栄えが良いが、こうして見ると確かに、赤色が使われた物は少ない。
「選ぶ人はいつも少ないですね。値段も、ちょっと高いし」
理久は包み隠さず答えた。体験教室では客の希望する作品のイメージを聞き、色と形を選ばせて作業をする。形状は元より色によっても値段に差があり、赤色のガラスは他と比べてやや高く設定されている。
「そうなんだ。材料の違い?」
義史はあくまで軽い調子だが、その着眼点は鋭かった。
「そーですね。内地の人が観光で行かれたら、ほとんど青とか水色、選ぶと思います」
そう伝えると、何とも残念そうな表情を横顔に浮かべる。
「おじさん、赤好きなんだよねえ……」
それは独り言のようにも聞こえた。
しかし気付いた理久が、あ、と彼の服を指差すと、義史は嬉しそうに歯を見せて笑い、裾を引っ張って見せる。
「そう! いっぱい持ってるけど、これ特にお気に入りなの」
そのかりゆしウェアは、人目を引くような派手な赤ではなく、上品な濃い赤色で、大きなヤシの葉柄が白く染め抜かれていた。涼しげだがしっかりとした生地で、色味、デザイン共に明るい彼の性格によく調和している。
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