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途端に理久は、自分の格好が恥ずかしくなった。黒いTシャツは汚れこそ目立たないが、洗練されているとも言い難い気がしたのだ。ひとまず、捲り上げていた袖を下ろして伸ばし、首に掛けたままにしていたタオルを取って、尻ポケットに捩じ込んだ。
そうしながら、ガラスの色について話を戻す。
「色とか、材料の詳しい事は、シン爺に聞いてください。僕はあんまり……」
熱を加える事でガラスの素地となるバッチの調合には、専門的な知識と緻密な計算が求められる。使用した原料の割合が、耐熱性や耐衝撃性といったガラスの特性、そして工芸ガラスに重要な色をも左右するからだ。
大城硝子では、調合士の比屋根晋一に一任されている。工房主の靖とは工房を立ち上げる前からの旧知の仲で、唯一の六十代のベテランとして、シンさん、シン爺の呼び名で慕われる人物だ。
「シン爺?」
義史が繰り返した。
「さっきいた、白髪のお爺さん分かりますか?」
理久は作業場の方向を指して確認する。
「調合士っていうのがあって。ガラスの元を作る時に材料ば入れるの、調整する人がいて、うちのはその人がやってます」
晋一が調合を行なうのは、倉庫の脇にある小さなプレハブ小屋だ。大城硝子では〈調合小屋〉と呼んでおり、グラム単位で計量した原料を混ぜ合わせ、撹拌するバッチ作りまでがそこで、彼の手で行われる。そのバッチを運び出して溶解窯に入れるのだ。
「調合士のシンさんね、分かった。ありがと」
義史は取り出したスマートフォンに何やら入力すると、素早く尻ポケットにしまって、また作品に目を落とした。
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