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「何で? いいじゃない! おじさん、若い子の話いっぱい聞きたいんだ! ワンはイッペー聞きたいサー!」
義史は胸の前で両手を拳に握り、強請ってきた。
「そんな話し方……友達のおばーくらいです」
少し頬を緩めると、義史の顔にも笑みが戻った。
「やだよね。浮かれてる東京者はさ」
白い歯を見せ、眉根を寄せて笑う顔を見た時、理久は胸の奥が絞られるのを覚えた。
狭い部屋の中で、初めて会った相手とたった二人で向き合っている。その事が、ひどく後ろめたい気がした。乾いた空気の中にあっても、背中に汗をかいているのが気になった。
「…………」
理久は何も答えず、すぐ足元に視線を逸らした。汚れた運動靴を履いた足と、島草履を履いた足が向き合っている。剥き出しになった足の指には、まばらに毛が生えていた。
「僕は……東京に行ってみたいです」
その姿勢のまま、理久はおもむろに言った。
「そうなの?」
突然の告白に、義史は少し驚き、そして興味深そうに聞き返してくる。
「それはまたどうして?」
「学校も、仕事も……何でもあるから。そんな東京の人が、暮らしを捨てて来る所じゃないですよ」
視線を感じ、顔を上げる事ができなくなってしまった理久は下を向いたまま続けた。
床に落ちた義史の影が動く。
「そうかなあ。俺は、ここには東京に無いものがあるって思うけど」
「……台風も来るし」
「それは厄介らしいね、聞いてるよ。でもそれも含めて、土地柄だ」
彼はあくまでも、沖縄への移住を前向きに検討しているようだった。
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