第三章 攪拌

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理久は一歩退くようにして休憩室に半身を戻し、続ける。 「僕はこの部屋にいます。何かあったら……」 「あ、今日は説明してくれないんだ?」 「えっ?」 思わず聞き返し、顔を上げる。 「なんちゃって」 立ち止まり、戸枠に手を突いた義史は、笑みに似た悪戯っぽい表情で、理久の顔を覗き込んでいた。 「お仕事の邪魔しちゃ悪いよね。工房の写真、撮らせてもらうよ」 不意に、知らない匂いが落ちてくる。纏わり付くようでいて、包み込むような香水のそれは、工房で働く職人たちとは明らかに違っていた。 理久はまた顔を伏せた。何故か顔が火照っているような気がしたのだ。 「……邪魔じゃないですよ。待っててください」 答えながら見たかりゆしウェアの胸ポケットからは、煙草のパッケージが覗いている。外国製の商品らしかった。 「ほんとに? ユタシクー」 義史は上機嫌に言って笑みを浮かべた。理久の視線の動きを、不自然には感じなかったようだ。
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