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画面を確認している脇をすり抜け、理久は溶解窯に歩み寄る。耐熱煉瓦製で、定休日には蓋も閉じられているが、中で溶けているガラスの熱気は伝わってくる。
「こっちが、ガラスを溶かすための窯です」
追いかけてくるのを肩越しに振り向いて説明した。顔の右側が熱くなる。
「こういうのってさ、炉、とは言わない?」
すかさず義史が質問する。窯ではなく、理久の顔を見ている。
「言う……工房さんもあると思います。でもうちは皆、窯って呼びますね」
目が合いそうになった理久は窯へと視線を外し、聞かれるままに答えていった。
溶解窯の中には複数の坩堝があり、バッチごとに色分けされたガラスの素地が回転している。安定した素地で製作工程を踏むためにも、熱膨張率の近い材料の組み合わせが好ましい。
調合は晋一の役割だったが、材料集めには大城硝子の従業員が持ち回りで繰り出す。と言っても、工房主の靖を除けば、大城硝子で働く職人はわずか二名だ。その下に、祐介と理久の二名の見習いがいる。
彼らは晋一の運転する軽トラックの助手席か、その後をついて行くワゴン車を運転して町を回る。契約を交わした店舗や廃品回収業者から、定期的に廃瓶および廃棄されたガラス製品を受け取るのだ。
そうして回収された瓶を工房へと持ち帰って洗浄、色ごとに選別し、砕いてカレットを作る。出来上がったカレットはペール缶に入れて整理し、倉庫に保管され、調合の際に使われていた。
物資も豊富になり、必要な物が手に入るようになった現代では、廃瓶だけですべての製作を賄う事は却って難しい。大城硝子においても、あくまで材料の一部であった。
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