第三章 攪拌

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瞬間、義史は眉間を険しくして、深刻そうな表情を浮かべた。天井を見上げ、ちらつきが収まるのを見届けてから、理久に視線を移す。 「あんまり遅くなって、理久くんが帰れなくなったら俺のせいだね。引き止めちゃって、申し訳ない」 申し出たのは、子どもを心配する大人の顔だった。 「平気です。家と近いし。あと、あんまり早く帰るのも……」 「もうちょっとしてもこの調子なら一緒に帰ろう。俺タクシー呼ぶから、お(うち)まで送るよ」 控えめに応じた理久に対し、義史は責任を主張するように、はっきりとした口調だった。 が、理久はそれを首を振って固辞する。 「いいです。お客さんにそんな事……」 「俺お客さんじゃないよ」 「僕、仕事で来てますから。ビービーもあるし」 「俺だって仕事だよ。お仕事仲間じゃない。何、遠慮して。おじさんと一緒に帰るの嫌なのかな?」 義史は真剣な表情を崩さなかったが、やや前屈みになり、聞き分けの悪い幼児に向けるような調子で食い下がった。 「や、そうじゃなく……」 否定する事はできず、つい言葉に詰まった理久の顔を覗き込み、畳み掛ける。 「靖さんにも申し訳ないよ、俺が。甥っ子さん残らせて、こんな大雨と雷の中帰らせて、怪我させたり、風邪でもひいたら」 靖の名を出され、理久は言い返せなくなってしまった。 義史と靖の間でどのような取り決めが交わされているのか、詳細には知らない。ただ自分がこれ以上遠慮を続け、万が一にも両者の関係が悪くなる事態は避けるべきであると、判断するくらいはできた。 「夕方には行き過ぎるって、さっきニュースで……」 理久は苦し紛れに言った。事務所のテレビによれば、それは事実であったからだ。 「何でそんなに──いや、そうなの?」 何か別のことを言いかけたようだったが、義史は態度を改めて聞き返してきた。
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