第三章 攪拌

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「俺も天気予報見てくるべきだったなあ」 「したら帰りましょーね」 理久はようやく落とし所を見つけた気持ちで踵を返し、成形窯に向かって歩き出す。説明を続けるつもりだった。 「一緒に?」 義史の声が追って来て、隣に並ぼうとする。理久は振り向いて首を傾げた。 「貝原さん、タクシーですよねー?」 すると何が琴線に触れたか、義史が上機嫌に戻った。 「ああ、若者の沖縄言葉! いいなあ!」 それから、理久を追い越さんばかりの勢いで前に回り込む。ふわりと香った匂いに釣られ、思わず顔を見上げると、短い髭の生えた口角が上がっていた。 「じゃ、もうちょっと説明してもらおうかな。せっかくだしね」 喫煙者にしては白い歯が、薄い唇の中に並んでいた。
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