第四章 加熱

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「貝原さんは──」 「よっしーでいいよ、理久くん」 声だけが返ってきた。座卓の陰になり、顔は見えない。 「皆にそう呼んでもらってんの。友達みたいに。ほら、取材って言ったらやっぱり緊張すんじゃん、がちがちーって。ちょっとでもラフに接してほしくてさ」 理久はひとまずタンナファクルーを一袋と、茶瓶と、コップを二つを載せた盆を持って義史の元へ向かった。 「時間は限られてるから。その中でいかに仲良くなれるか、なんだよね」 盆の下を覗き込むようにしながら、立ったまま運動靴を脱いでいると、義史が勢いよく起き上がった。 「沖縄にもあるじゃん! 行逢えば兄弟って言葉」 「はあ」 理久は曖昧に返事をしながら畳に上がり、座卓を挟んで義史の斜向かいに正座した。茶と菓子を勧めながら思い切って訊ねる。 「冷たいお茶、平気ですか? よっしー……しーじゃ」 「うん。ありがとね、お構いなく」 義史は変わらず笑みを浮かべ、一度盆の上に視線を落としてから、ずいと顔を近付けた。 「ね、いま俺のこと何て言った?」 「よっしーしーじゃ、です」 「シージャ……」 理久が答えると、義史は気の抜けた声で繰り返し、一度眼鏡のブリッジを押し上げた。 「それってどういう意味?」 「年が上の人とか、先輩とか呼ぶ時に言いますね」 「へえ、知らなかったなあ」 感心したように言ったものの、何かが腑に落ちない様子で天板の上に指を組み、理久を見つめる。 反射的に視線を下げた理久は、義史の手首に黒いヘアゴムが嵌められているのに初めて気付いた。指や腕に生えた毛に絡まないようやや太めで、飾りのないデザインにも関わらず、ファッションの一部に見える。手指が長く、手の甲には血管が浮き、手首は骨張ってがっしりとしていた。
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