第四章 加熱

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「シージャとニーニなら、どっちが上なの?」 まっすぐに視線を向けられ、理久はどう答えたものか迷った。敢えてしーじゃと付けたのは、彼を〈よっしー〉と呼び捨てにする事に、馴れ馴れしさや違和感があったからに過ぎない。 「いきがしーじゃも、にーにも、お兄さんですけど」 「イキガは男の人って意味?」 義史はすかさず聞いてくる。まるで尻尾を掴んだと言わんばかりに、理久の使う言葉について知りたがった。 「あと、彼氏とか」 「女の子は何て言うの?」 「いなぐ。やーのいなぐいるのー、って聞いたり」 「ふーん、あんまり聞いた事ないなあ……」 正座して答える理久に対し、義史は片膝を立てて頬杖を突いて小さく言った。口にこそ出さないが、何か不満があるのは明らかだった。 「……にーにの方がよさそーですね」 「そう! やっと呼んでくれた!」 理久が気付いて提案すると、途端に座卓の上に乗り出し、嬉しそうな満面の笑みを浮かべる。これまでよりいっそう大きな反応に、理久の方が照れくさくなって俯いてしまう。 「初めの時にそう呼べって……」 「うん。だから理久くんが呼んでくれるの待ってたんだよね、実は」 今度は膝立ちになって両手を広げ、自分の姿をよく見せるようにする。 「ほら、俺確かにおじさんだけどまだ三十前半だし、ギリお兄さんて感じでいけない? だめ?」 「僕のお母さんが三十八なので、あんまり……」 理久が正直に伝えると、義史は目を見開き、 「まじで!?」 と大声を上げた。それから大袈裟なまでに眉根を寄せて傷付いた表情になり、胸を押さえる。 「ああ、今のは結構な……そんなに歳変わらないのかあ。て言うか、自分の歳の半分の子がこんなに大きいってのがそもそもショックでかいよ」 「すみません、でも、にーには、にーにだから……」 何とか取り繕おうと言葉を探す理久を見、今度は肩を竦めるようにくすくすと笑った。 「なんか可愛いなあ、理久くんは」
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