第四章 加熱

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食器棚にあるコップは、琉球ガラスではなく、近所のスーパーマーケットで買い揃えた工房の備品だ。シンプルな円筒型で、サンドブラストによる柄が入っている。 高温の窯を用いてガラスを溶かし、吹き込みを行なうホットワークに対し、熱を使わず、ブラスターで微細な砂を吹き付け、研磨する事でガラスを加工するのはコールドワークと呼ばれる。 お客さんじゃないよ、と作業場では言い張っていた義史だったが、タンナファクルーとさんぴん茶による歓迎には、沖縄を感じる、と言って喜んだ。一方、コップのデザインについては何の感想も表さなかった。職人技ではなく、工場で大量生産された品である事が一目瞭然だったからだろう。 「じゃあ、今のうちにインタビューさせてもらおうかな?」 沖縄名物を一通り堪能し、義史が言った。 「僕にですか?」 意外な提案に、理久は居住まいを正す。 「うん。メインは工房主の靖さんだけど、この工房自体の取材だからさ。理久くんも頼っちゃう」 義史は返事も待たず、脇に置いていたバッグからボイスレコーダーを出す。彼の中では、理久をインタビュイーに指名するのは既に決定事項となるようだった。強引さやそれに似たものはなく、飽く迄も軽快な態度による事の運びは鮮やかですらある。 「えー、二○一六年六月十四日。沖縄県糸満市、大城硝子さんにて。取材者は貝原義史、お相手は大城理久さん」 マイク部分に口を近付け、慣れた様子で声を吹き込む。調子は先程と打って変わってやや業務的で、抑揚が少なく、また声も低かった。
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