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それまで〈理久くん〉であった呼び方が〈大城理久さん〉に変わった事は、理久の緊張を増させてしまった。工房の中でも最年少の身において、一人の大人として扱われる経験は新鮮であり、気恥ずかしくもあったのだ。
「緊張してる?」
わずかに下にずれた眼鏡の奥から、上目遣いに見透かされ、ますます固まってしまう。黙って小さく頷いた。
「世に出る内容だからさ、一応きちんと記録しておきたいって言うか──このナリできちんとなんて、どの口が言ってんだよってね」
白いシャツの袖口を捲って見せてくるが、理久は愛想笑いすらぎこちなくなっていた。
「後々清書する時に聞き直すんだけどさ、いつも初めのほう、俺ばっかり喋っちゃてんの。だからこうして早送り……ほんと、嫌んなるね、カシマサンは」
インタビュアーとなった義史は変わらず、手振りを混じえ、陽気に話し続ける。理久ですら使わない方言を敢えて使う事が、彼にとっての楽しみらしかった。
「ちょっと仰々しいけど、普段通りに答えてくれれば良いから。むしろその方が有難いって言うか」
「…………」
黙り込んでしまったインタビュイーを見かねたように、義史は笑みを見せ、座卓に手を出してきた。
「理久くん、いい事教えてあげる」
「え……」
「緊張しないおまじない作っとくの。ルーティーンって言うのかな。何か緊張しそうな時が来たら、必ずこれをやる! ってやつ」
理久は俯いてもじもじと手を動かす事しかできない。急に提案されても、戸惑ってしまう。
「何でもいいよ? 手に人って書いてのみ込むって有名なのでもいいし。両手の親指をこう、ギュッと握るとか、そういうのも効果的」
「ほんとに……?」
半信半疑だったが、言われるまま手を伸ばし、義史の親指を握った。ポンテ竿やハンマーの握り過ぎで豆が出来、固くなった両手で包み込むように触れる。
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