第一章 拾集

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ひさ子が顔を上げると、そこに、一人の男性が外から手を振っていた。 三十代半ばで、アロハシャツに似たかりゆしウェアを着、首には麦わら帽子の紐と、一眼レフカメラを提げている。カメラに取り付けられたベルトは昔ながらのミンサー織りで、足元は膝丈ズボンに島草履(ぞうり)だった。 工房の作業場は、受付から入り、廊下を横切った先にある。コンクリートと折板トタン屋根の造りで、屋根が高く、ガレージのように一面が抜け、今日のような晴れの日にはアコーディオン式のスチールシャッターが開放されていた。その先はアスファルトで舗装された駐車場へと繋がる。 作業場にはガラス工芸に欠かせない三種類の窯と二つの作業台をはじめ、道具を載せたスチールラック、ワゴン、自立式扇風機、バケツやドラム缶といった設備が乱雑ながらも動線を確保している。壁際に置かれた台には、耐火ボードで囲まれたガスバーナーも設置されていた。 黒いTシャツを着た従業員が、その間を縫って働いていた。頭や首にタオルを巻いてこそいるが、顎やこめかみからは拭いきれない汗が滴る。 五名ほどの客が入口に近い壁沿いのベンチに一列になって座り、順番を待っていた。今日は週末という事もあり、体験客の人数は多い方である。その後ろにはホワイトボードが吊られ、『吹きガラス体験』の文字の下に、グラス、皿、一輪挿しといった作品の形状が手書きで書かれていた。 工房主の大城(やすし)も、坊主頭に汗を浮かべながら、腕を組んで様子を見ていた。その後ろから、かりゆしウェアの男性が近寄り、肩に飛びかかる。 「や、す、し、さーん!」 「あいっ!」 驚いて振り向く靖だったが、色付き眼鏡を掛けた人懐っこい笑みを見るなり、すぐに笑顔を浮かべた。 「めんそーれ沖縄!」 歓迎の挨拶を交わし、呼びかける。 「えー、ちょっと聞いてくれ! そこの手は止めなくていい。空けられたら集まって」
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