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すぐに、体験教室の担当者を除いた従業員が集まって来た。年齢は二十代から六十代、全員が男性で、人数は五人足らずだ。
「今日からここの工房の取材なさる、貝原義史さん。東京から行かれた」
靖から紹介を受けた義史は、嬉しそうに口角を持ち上げた。
「五加出版のよっしーです。しばらくご厄介になります」
硬めの黒髪を耳が隠れるほどの長さに伸ばし、サングラスのような眼鏡を掛けた様相は観光客と見まごう装いだが、名刺を一人ずつに配り、国内外の工芸を扱う季刊誌『金銀工藝』の取材だと話した。
靖は両手を腰に宛てがい、話を続ける。
「という事で、これから二ヶ月──」
「二週間です。二週間」
義史は人差し指と中指を立てて訂正しつつ、
「やだなあ、靖さん。居られるならいくらでも居ちゃいますよ、俺」
と、笑顔を浮かべ、調子よく返した。靖も機嫌よく笑い、それぞれを持ち場に戻らせた。
挨拶もそこそこに、義史が話し始める。
「いやあ、ほんとありがとうございます。こんな取材引き受けてくださって」
「いいよー。よっしーの頼みさー」
大柄で筋肉質な靖が、拳でどんと自身の胸を叩いて見せた。対して細身の義史も嬉しそうに顔を輝かせる。
「やっぱ優しいんだから! 行き逢えば兄弟でしたっけ? 一回しか会った事ないのに、すごく居心地良いもんなあ」
「えー、一回きりだっけー?」
「そうですよお。俺が前に沖縄来た時以来っすもん」
軽妙な会話を続けながら、首に掛けていたカメラを取り上げ、操作をする。
「でも良かった。ガラス工芸と言えば琉球ガラスって、俺ずっと──」
話を遮るように、ガシャン! と大きな音がした。順番を待つ客と義史が音のした方へ視線を向ける。
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