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作業場の隅で、一人の少年が、空き瓶の入ったビールケースをコンクリートの床に置いた音だった。ケースにはガラスの空き瓶が十二本入っている。
「わお、力持ち」
驚いている来客を意に介さない様子でビール瓶を取り出すと、瓶より一回り大きな筒に入れ、ハンマーで叩き割り始めた。
「難しい年頃ですなあ」
義史が冗談を続けるが、靖は少し気難しい表情で呼びかけた。
「りーくー!」
呼ばれた少年が手を止め、顔を上げる。
手招きされ、首から掛けたタオルで顔を拭きながら走ってくる。こめかみや、Tシャツを捲りあげた腕も汗だくだった。
「眼鏡はきな言ってるさー」
靖はその様子を一度窘めてから、義史を指した。
「こちら、東京から来られたにーに、貝原義史さん。ここの取材でしばらく居る事になる」
「お邪魔してます。ニーニです」
〈にーに〉と紹介された義史は涼しい表情を作り、人差し指と中指を軽く眉尻に当てた。
少年は何も答えず、タオルで鼻の下の汗を拭きながら、靖と義史の顔を交互に見る。うなじを刈り込んだ癖っ毛の下、日に焼けた彫りの深い顔の中で、大きな目が動いていた。
「だー、ちゃんとご挨拶せんか」
靖が理久の癖っ毛に手を置き、頭を下げさせる。
「……お、大城理久です」
頭を上げた理久が小さく名乗ると、靖はようやく手を離し、溜息を吐いた。
「すみませんねー。自分の甥なんですがー、最近口数が少なくて」
「うんうん。そういうお年頃よね、分かる」
義史は特に気にしていない風で歯を見せて笑う。
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