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理久は設備や内装について、必要最低限の説明をするのみだった。
「ここが、お客さんの出来上がりを置いておく部屋です。僕らの……売り物と一緒ならないように」
部屋のアルミ戸の前に立ち、後ろをついて来る義史の顔を見上げる。細身から中肉中背といった印象だが、成長期真っ只中の理久に比べると、背は五センチばかり高かった。
「なるほど。他の人が気に入って買っちゃったら大変だもんね。めちゃくちゃセンスが良いお客さんがいたりしてさ」
義史は常に冗談交じりに話し続けており、それに対して理久は、
「はあ」
と曖昧に返す事しかできなかった。軽妙な話しぶりは、返答を求めているのか否かが曖昧であった。
「…………」
不意に沈黙すると、後ろに立ったまま、理久の次の動きを待つ義史が聞き返す。
「ん?」
この工房を訪れてから、彼が口を閉じたのは初めてと言っても過言ではなかった。口角の上がった口元には短く整えられた髭があり、顎の下では喉仏が一つ動く。
理久はそこから視線を逸らし、短く訊ねる。
「中、見ますか?」
「いいの? 是非」
その言葉を求めていたと言わんばかりに答えた声は、理久のものよりやや低かった。
工房の体験教室では最も一般的なグラスのほか、花瓶や器を受注する事もあった。歪みが出ないよう、摂氏六百度の徐冷窯の中で丸一日かけて熱を取られた作品は、水洗いされた後、この部屋に集められ、梱包や発送などの手続きを待つ。
狭い部屋には木製の棚が二台とテーブルが二脚置かれ、間隔をあけて作品が並んでいる。展示目的ではないため陳列の仕方は雑多だが、色とりどりのガラスは高い窓からの光を取り込み、溢れそうな輝きを放っていた。テーブルに落ちた影にすら、薄らと色がついている。
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