ムーン・フォール

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ムーン・フォール

 突然地球に月が落ちてきた。  何でそうなった!?と思われるかもしれないが、事実なのだからそうとしか説明しようがない。  月はある日、まるで何かの支えを失ったかのように、ひゅるるるるる、と音を立てて地球に落下してきたのである。しかも、落下すればするほど、そのサイズが小さくなっていくのだ。月の大きさは、約3476kmだと言われていた。地球の約四分の一のサイズだ、そんなものが落ちてきたら地球は大惨事に見舞われたはずである。  しかし、落ちれば落ちるほどどんどん小さくなった月は、最終的にはちょっとした野球のドームの半分くらいのサイズになってとある大陸に激突したのだった。しかも、そのサイズの衛星が落ちてきたにしては、地震などの衝撃は大したことがなかったのである。――まあ、真下にあった町は一つ、綺麗になくなってしまったが。 「落ちてきたあれは、本当に月なのか?」  月に関する研究は、月が落ちてきた国に一任されることになった。大統領は専門機関の人間に尋ねる。どうしても、信じられないことが多すぎたからである。過去、人類は何度も月へ足を踏み入れている。地球からの観測結果からしても、月へ行った人の調査結果からしても、月があんなに小さいなんてことはあり得ないのだ。  そして、月にも当然相応の重力があるはずだ。地球の六分の一、というのはけして弱いものではないだろう。本来なら、地球環境に与える影響は計り知れない――というのは、その方面にあまり知識がない大統領にも想像がつくことである。  ところが、実際は月が落ちてきたにも関わらず、被害はほぼ真下の町が潰れてなくなった、にとどまっている(無論たくさん人は死んだが、本当に計測通りの月が落ちてきたならば被害はこの程度ではすまなかったはずだ)。サイズも本来計測していた大きさからすれば遥かに小さいし、落ちてきた月からは一切重力を感じないという。  もっと言うと、地球の地軸というものは月によって安定していたはず。月がなくなるだけで、地球は滅亡の危機にさらされるはずなのだ。ところが、二週間過ぎても、専門機関がいくら調べても、地球の地軸がズレている様子はない。  何がどうなっているのか、知識がある人間ほど大混乱に陥っているのが現状なのだった。 「私も信じがたいです。しかし、あれが月であるのは間違いないのです」  機関の男は、困惑したように首を横に振った。 「実際、あの月が落下してきてから、地球の空に月は観測できなくなりました。ずーっと新月のままです。やはり、落ちてきたアレが、月だったと認めざるをえないかと」 「なんてことだ。……しかし、何故月は落ちてきたんだ?」  大統領は首を捻った。 「落ちてきた月は、結構損傷が激しい状態だったと聞くぞ」
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