終わりの境目、打ち上げ花火の約束

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 そうして来た遊園地は馬鹿みたいに混んでいて最初からうんざりしていた。梢がはしゃいでいた分、余計に。当然ながらこのアトラクションが来月消えてなくなるとは思えなかったし、花火だってそれほど特別とも思えなかった。第一、9月になれば格段に空くだろうしこんなに暑くもない。  何故僕はここにいる。沖縄旅行のほうがよほどいい。そんな不満が汗と共に漏れ出て、真昼を過ぎて日が傾くにつれてだんだん言葉数も少なくなって、夕方になる頃には雰囲気は最悪だった。 「その……ごめんなさい」  梢から出た、よく考えたら初めての謝罪は、どうしようもなく僕を苛立たせた。 「謝るなら最初から来るべきじゃなかった」 「でも一緒に花火を見たかったんだ」 「花火なんていくらでも見れるだろ? 港で花火大会だってやる」 「でも今、ここの花火を見ないと駄目な気がしたんだ」 「そう。でももう喋らないで」  コップの淵から溢れそうなイライラは最高潮に達していた。  謝るならもっと前に、せめて沖縄旅行をキャンセルする時に謝ってほしかった。御免なさい、どうしても行きたいんだって。それならもう少しマシな気分で諦められたかもしれないのに。  そして僕らは結局花火まで保たず、一緒にいられるかと梢を置いて一足先に遊園地を出て車に乗り込む。沖縄旅行に行く代わりに園内のホテルを取っていた。梢は一人で泊まるだろう。  そう思って振り向くと空に大輪が咲いていた。腹立たしくも美しい。多分もう、僕らは駄目だろう。  そんな予感を残す艶やかな光。  そしてその予感は当たった。僕の想像とは全く違う形で。
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