終わりの境目、打ち上げ花火の約束

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 やけ酒を飲んで目覚めた翌午前中。ぽっかり空いた一日をどう過ごそうとテレビのリモコンを押しても繋がらず、頭を捻っていたら唐突に不穏なサイレンが響いた。防災放送という奴だろう。急いで最寄りの小学校の校庭に集まれと言う。  災害でも起こったのか、と向かうと大勢の住人がぎゅうぎゅうと犇めいていた。しばらくすると3人のスーツの人間が異様な緊張とともに朝礼台に上がる。  告げられた内容はちっとも頭に入らなかった。  昨夜未明、戦争が始まった。港湾地区から敵軍が揚陸し、港をを中心にこの市を南北に貫く大きな街道沿までを占拠した。前線であるこの町には敵方から強固なジャミングが施され、テレビもラジオも、スマホも正常に作動しない、そうまら。 「今後、この街の一部は敵国に対する防衛拠点となります。そのため、住民全員は遅くとも明日午前9までに避難して頂きます」  その声に怒号が巻き起こる。 「無茶な。意味がわからん」 「そうだ。うちには足腰がたたん婆さんがいるんだぞ」 「避難先での当面の生活保証は致します。今後各戸順番にお伺い致しますが、移動が困難なご事情がある方はこちらで移動のお手伝いを致しますのでお申し出下さい」 「そんな勝手な言い分が通るか!」 「現在は戦時下です。いつ敵軍が攻め寄せるかもしれません。残られても自衛隊は個別にお守りできません。速やかに避難下さい。安全じゃないんです、戦争ですから」  戦争。そのよく耳にするけど身に覚えのない言葉に沈黙が降り積もる。  唐突に降ってきたその言葉は、雷鳴のように遠くに聞こえ、(とどろ)きのように怪訝なざわめきが響く。  戦争なんてものはテレビの向こうで起こるものと思っていた。今それがこの町のすぐ近くで起こっている? けれども重火器の音も爆撃の音もついぞ聞いていない。  朝礼台の人間の必死さに、ますます演劇でも見ているような気分に陥る。東西を結ぶ交通機関が断裂している旨、移動が困難な者はこれから3日の間、この小学校のグラウンドから自衛隊が移送する旨、この町で国が接収部分には追って補償が出る旨の連絡があり、解散となった。  配られた地図ではこの市の中心を南北に貫く大きな街道沿いに一本の太い線がひかれたもの。ここに敵軍によってバリケードが張られ、東の海側には通行できない。  そして遊園地と梢の家はその線の向こうにあった。
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