6人が本棚に入れています
本棚に追加
梢に電話しようと慌ててスマホを出したが、電波が繋がらないことを思い出す。異常。いつもと同じと思っていたのに、それは確かに存在した。スマホもネットが繋がらない。普段と違い酷い非日常。俺の足取りはふらふらとその異常をもたらした者のいる街道に向かった。それも歩いて20分ほどの距離なのだ。
確かに六車線の道路沿いにバリケードが張られている。それでもなんだか、映画のワンシーンに見えた。先程まで公民館にいたであろう人間が大勢、俺と同じように遠巻きにしていた。
そのうち高校生程の若者がバリケードに近づこうとして、タンという乾いた音が響いた。
やはり非現実的な音。高校生は一瞬驚き、当たりを見回したが、さらに1歩近づいてまたタンという音が響き、その次の音で高校生は倒れて動かなくなった。
そこから3秒程沈黙が走り、悲鳴がそこかしこから上がり、蜘蛛の子を散らすように人影はなくなった。
フェンスに沿って等間隔に3階建てくらいの高さの哨戒塔が立っていて、その上に人が動いている。あそこから撃ったのかもしれない。そんな風に考えることこそ、やはり非現実的な気がした。
あの向こうにおそらく梢がいる。
けれどもスマホも何も通じない。だからわからない。
だから一旦家に戻り、ジャミングの効果範囲外を探しにバリケードと反対の西側に車を走らせた。けれどもその道は山越えで、山の遥か手前から恐ろしく渋滞していた。車を停めたコンビニでこの先検閲があり、一度外に出れば再度入れないと聞いた。だから出るのは諦めた。
そしてこの渋滞という変化とスマホの異常が頭の中で繋がり、本当に戦争が起こっているのかもしれないと思った。
そして初めて酷く後悔した。苛立ちにまかせて昨日帰ってしまったことを。ただ苛立っていただけで、梢が嫌いだったわけじゃない。たまたま昨日は苛立ちが上回っただけで、それでも昨日じゃなければ置いて帰ったりしなかった。
泡のように浮かぶ言い訳を嘲笑うように手のひらの上で風が走る。それで最後に握った手を離した時を思い出した。もう二度と手を繋ぐこともできないのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!