終わりの境目、打ち上げ花火の約束

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「あんた、あっち側に行きたいの?」 「行けるんですか?」 「どうだかな。今のところ昼夜問わず、街道に近づけば撃たれてる。車で街道沿いに調べてみたが、北はこの街道が神津の線路と交わるところまで続いていて、越えた所からバリケードが東に向かい、再青川(さいせいがわ)に当たる所で川沿いに南下している。南は街道沿いに進んで中華街の南側のトンネル手前から海までがフェンスに覆われてた」  そうすると、占領されたといってもそこまで広い範囲じゃない。この神津市の東半分程度の広さだ。その規模に胸をなでおろす。戦争と言ってもきっとすぐに終わるんじゃないか。  尾黒も昨夜、東側から大きな雷のような音を何度も聞いたそうだが、それ以降はずっと静からしい。 「敵というのは強いのでしょうか」 「わかんないな。何せこの神津の中にいる限り、情報が全然ない。どこの国が攻めてきたのかも」  そういえばそうだ。説明会ではただ「戦争が起きた」としか聞いていない。そして自分も、敵についてさほど興味を持ってなかったことに気がついた。全てが非現実的だ。  尾黒も街道の東側に行きたいそうだ。自宅が向こう側にあり、妻と子がいる。何としても会いたいが、街道に近づけない以上、成すすべがない。  僕は尾黒と行動を共にすることにした。ある意味似たもの同士だった。スマホが通じないから一度別れたらもう会えない。  尾黒との生活は奇妙だった。一日を過ぎる毎に人口は加速度的に減少する。だから早めに食材を抑えるのだといってスーパーやコンビニから缶詰や保存食、飲み物を確保した。最初は申し訳なく、多少の現金を置いてきたが、いつの間にかこのあたりの電気が切れてATMが動かなくなっていた。抗議するものは誰もいない。だから無断で持ち去る。それにもいつしか慣れてしまった。映画やゲームの中の出来事のようなだ。  同じような人間はいるのだろう。場所によっては既に荒らされた後だった。そのことに何故だか安心した。    数日が経過し、街道沿いに時折死体が増えている他は銃声や砲声が鳴り響くこともなく、戦争の傷跡は見いだせなかった。相変わらず街道に近づけば銃声が鳴るが、一発鳴った時点で撤退すればそれ異常はなにもない。それはあたかもゲームのようだ。  いつしか人がいないことも、夜に星あかりしかないことも慣れていた。電気もガスもなく、水はペットボトルで缶詰を食べる生活。  夜は空を見上げながら梢の事を思い出した。あの日喧嘩別れしなければ、一緒に見上げたはずの空を。尾黒は夜になる度、家族の話をした。僕は心が咎めて、梢については禄に話すことができなかった。  花火を見に行く約束があったからだ。  梢はある意味、正しかった。僕は梢と神津港の打上げ花火を見に行こうと思っていた。けれども東側の神津港は閉鎖され、花火なんて上がらなかった。だから結局、あの遊園地の花火を見る以外、僕と梢にこの夏花火を見る機会なんてなかった。  だからあの遊園地の事を調べた。独自の電源設備を供えているとか、あの花火はどこから上がるのだろうとか、遊園地の規模や設備を図書館で。時間は余るほどあった。
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