終わりの境目、打ち上げ花火の約束

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「戦争は本当に起きてるんでしょうか」 「そりゃそうだろ。街道に行けば発砲されるんだから」 「けど、他に何もない。自衛隊も最初の日以外見かけないし、ミサイルみたいなのも飛んでない」  僕たちが認識した戦争の痕跡なんて、毎日の街道の発砲音しかなかった。一日一度、街道に近寄る。一度鳴れば撤退する。それなら田んぼにあるカラス避け以上の意味なんてない。僕らはこの境界の周りを彷徨(うろつ)くカラスだ。  その他には人がいないこと。そして夏に街道沿いで死んだ遺体が骨になっていること。骨になるのには一週間ほどしかからなかったように思う。骨が野ざらしになっているのはおかしな光景だけれど、近づけない以上どうしようもない。そして骨はいつしか街道沿いの奇妙なオブジェになっていた。ゆるやかにこの状態に鳴れていた。  そうしていつしか、戦争を感じないまま5ヶ月がたった。  そうしていつしか、敵軍はいなくなった。何故ならその日、街道に近づいても発砲されなかったから。  街道を越えるには今しかない、と尾黒と目配せをして、一目散に街道まで走る。憂慮していた発砲はなかった。  敷設されていたフェンスを乗り越え、呆然とした。5ヶ月ぶりに見た東側は、僕らがいた西側と全く様相が異なっていた。   そこには戦争の爪痕が深く残されていた。 「おいおいおい、ちょっと待てよ。何だこれは。一体何がどうなっているんだ」 「尾黒さん、僕は彼女の家に行ってみます」 「ああ、俺も家に急ぐ。ここまでだな。長いようで短いような間だったが、お前がいて助かった」 「ええ、僕も尾黒さんがいなければ神津に残るなんてできなかったでしょう」
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