終わりの境目、打ち上げ花火の約束

8/9
前へ
/9ページ
次へ
 抜けるような冬晴れの空の下、西側の街の半数の建物は不格好に破壊されていた。爆撃か砲撃でも受けたようだ。  建物解体のような綺麗なものではなく、まさに中途半端に崩れた瓦礫が所々に広がっている。長期間放置されたのか、泥のようなものがこびりついて劣化していた。破壊は随分前かもしれない。僕は砲声や爆撃音なんて聞いていない。心当たりがあるのは戦争が始まる夜、尾黒が聞いたという雷鳴だけだ。つまり、敵軍が上陸した日、破壊をした。  ゴクリと喉がなった。  僕は瓦礫に触れるまで、すぐ隣の、せいぜい1キロ先の場所で起こっている戦争というものにピンときていなかった。昔見たテレビの映像と違い、その瓦礫は触れることができた。足を踏み入れ、強い風が更けば埃が巻きあがる。それが鼻孔に入って思わずえづく。そして、現実感が浸透する。戦争?  通いなれたはずなのに瓦礫で埋まって全く様相の異なる歩道。スニーカーの下から感じる硬いコンクリート片とそこから無精髭のように無様に飛び出した鉄筋、たくさんの木片。  目の前にした唐突な日常の破壊に頭が朦朧とする。  梢の家のある区画の建物損壊は比較的ましだった。  けれどもその分、より悲惨だった。壁には銃弾が穿たれたような小さな穴が無数に空き、服を来た骨が転がっていた。今は季節は冬だ。けれども骨は半袖を来ていた。ということは、やはり5ヶ月前に戦争が始まったのだ。  梢の無事を祈り、五ヶ月も経っていることに愕然とした。既に梢と出会って夏までと同じ期間。僕はその間、何をしていた。ただ、街道の西側をうろついていただけだ。五ヶ月の間ただ様子を見守り、缶詰を食べていた。変わらない生活に時間の経過をほとんど感じなかった。けれども僕らのすぐ隣のここは、五ヶ月の間、ずっと戦争だった。  梢が家族と住む一軒家の玄関扉は破壊され、恐る恐る足を踏み入れると酷く獣臭く、動物の糞がそこかしこに転がっていた。本や服、雑貨は床に飛散し朽ちている。部屋は荒れ、長期間動物が住んでいた気配が漂う。  そして、ここにはおそらく梢はいない。この家の中には骨はなかったから。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加