二人掛け

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 お金を払って中に入ると、ほぼ満席状態の、人口密度が高いバスが発車した。  立ってる人もいる。でも、奥の方に空いてる席があったので、これ幸いと腰を落ち着ける。  耳に手を当て、目を閉じると、周りの音が聞こえてくる。  あっれー、はなちゃん、帽子なくした~?  それでさ、先生がさ。  ああ、うん、今バスの中。一時間くらいで着く。  は? ちょっと、それひどくない?  おはようございまーす。お久しぶりですねー。  あんた、しばらく休んでたけどどしたの?  だから、バスの中って言ってんだろ。  待って待って、ママ。  相変わらず騒々しい。椅子に座ったり立ったり。声を上げたり、口を閉じたり。世間話に花を咲かせるおばさんがいれば、一人で携帯とにらめっこしてる人もいる。  目を開けて、そっと辺りを見回した。  前の方で話し込んでるのは、清咲(きよさき)学院中学の女の子たち。いつも通りお気楽で華やか。楽しそうだけど、地味に前に座ってるおばあさんの迷惑になってることに気づいてるかな。  すぐ前の席に一人で座ってるおじさんは、でかい声でひたすら電話している。時々怒鳴るから、近くに立ってる保育園の子が怖がってる。  短パンにステテコ姿で一人掛けの席に座ってるおじいさんは、ぶすっとした顔をしながらも根は優しい人。ほら、妊婦さんに席を譲った。どうぞっていう言葉もなく、妊婦さんに座るよう促す。彼女は頭を下げてそこに座る。相変わらずぶすっとしたままのおじいさんの態度に、見ているこっちが笑えてくる。
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