二人掛け

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 ただ走っているだけなのに、ガタンガタンと大きく揺れる。  ガタン。ガタ、ガタン。  ああ、と察する。  なにかが起こる。些細だけど、ちょっと特別な、なにかが。もしかしたら、私が待ってた瞬間が、ついに今日来るのかもしれない。 『はい、揺れますのでお気をつけください』  運転手のなんとなくしまりのない声が流れる。  この運転手が乱暴な運転をすることも、しっかり観察して知っている。でも、ステテコのおじいさんのように、口下手なだけでちゃんと優しい。お年寄りが長い時間をかけて乗るのを、きちんと待ってあげているから。  人は、そういう些細なことで判断されやすい。そりゃ、私みたいにこんなに注意深く観察する人はいないかもしれないけど、皆どこかで意識している。「この人はどういう人かな」と。自分の中に作ったいい人と悪い人をわける判断基準。そこにひっかかるかひっかからないか。  そして同時に、しっかり気づいている。  自分もまた、誰かから見られていることに。だからこそ、見た目に気を遣う。身だしなみを整え、外見だけでもと取り繕う。  私の場合は、そういう人たちとはちょっと違って、観察するだけだ。じっくり人々を検分して、だからどうするとかそういうわけではない。心証を悪くしたり良くしたりということもなければ、「誰かから見られている」と外面を磨いたりもしない。  ただ、待っているだけ。獲物が罠にかかるのを。  そしてその獲物は、次のバス停で乗り込んできた。
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